753回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 537:光さす君の隣へ
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ボートで島を脱出したベイル達は、船に向かいオールを漕ぎながら雄馬を気にしていた。
ミサゴの斬撃で発生した重力波が空間の歪みを生み、島を海底に引きずり込み崩壊させていく。
洞窟に海水が雪崩れ込み、慌てていた彼らを雄馬の念話が導いて脱出することができたのだ。
ベイルは泣きそうな顔で力無く雄馬の名を呼ぶ。
「自分は大丈夫だから先に戻れと本人が言ったんだ、心配いらないよ」
ガルギムが諭すがベイルは浮かない顔で「でもよう……」と漏らす。
ちょうどその時、沈みかけの島からシュポーンとなにかが飛び出し近づいてくるのが見えた。
「なんだなんだ!?」
大量の影霊に押されてロケットのように飛ぶ小舟。
それは放物線を描きベイル達のボートの近くまでやってきた。
「外だーーーッ!!」
船の上で雄馬が両腕を上げて叫ぶ。
彼はジェドの抜け道を見つけ、火の指輪で影霊をつかい船でぶっ飛ぶ事で洞窟を脱出したのだ。
「雄馬ぁ!!」
情けない声で嬉しそうに叫ぶベイル、突拍子もない状況に目を丸くする面々。
雄馬はみんなに笑顔で手を振り、火の指輪を掲げ「とったぞー!」と叫んだ。
はしゃいでミサゴを落としそうになり、雄馬は慌てて尻餅をついた。
雄馬は自分の手を見つめて握って開いてみる。
痺れて思うように力は入らないが、痛みで動かせないほどじゃない。
あの規模の力を使ったにしては負荷が軽い。
彼の体にかかった大罪魔法の負担は流砂を止めた分だけで、ミサゴの剣に付与した分は全く影響しなかったようだ。
代わりにミサゴが疲弊して気絶した事から、あの使い方をすると代理で使った相手の負担になるのではないかと雄馬は推測した。
モンスターなら人間より軽く済むって話だったが、今度から気をつけなければと彼は思った。
「それにクリーチャーを斬り倒す分しか力を出してなかったのにあんな威力になった。ミサゴのジェドに対する感情が大罪魔法に作用したのかな……」
考え事をしているとミサゴが目を覚まし、周囲を見回し口を開いた。
「船を飛び越すんじゃないか?」
「あっ!本当だどうしよう」
「まったく、ダメ人間め」
ミサゴは悪態を吐きながらも雄馬を抱き抱えて飛び降り、パラディオンに向かい飛ぶ。
「ありがとう、助かるよ」
「これで貸し借り無しだ」
「ちゃっかりしてるなぁ」
パラディオンの甲板ではヤブイヌ達やガフールさん達が手を振り声を上げて、二人の帰りを歓迎していた。
ミサゴは嬉しそうな雄馬と仲間達を見て自嘲するように小さく笑う。
今まで彼が雄馬に対してそっけない態度をしていた理由、それは雄馬達があまりに幸せそうで、そんな彼らの幸せを壊したくなかったからだった。
彼らの輝きはいらないものとして捨てられた汚い自分が触れてはいけないものだと、そう思っていた。
でもそれは少し違っていたらしい。
雄馬にはきっと他人の不幸を癒し、幸せにできる力がある。
彼の仲間達もみんなかつてそうして救われてきたんだろう。
雄馬と共に甲板に降りると、彼の仲間達はミサゴも仲間として受け入れてくれていた。
彼は今幸せの輪の中にいる、それで幸せが壊れることもない。
山桐雄馬の持つ光は翳る事なく、暗闇の中にいたミサゴの心もひだまりに連れ出した。
「俺もここにいて良かったんだ」
そう呟くミサゴの顔を見ると、彼は優しい顔で微笑んでいた。
それを見た雄馬も嬉しくなり笑みをこぼす。
パラディオンの甲板に笑顔が溢れていた。




