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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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749回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 534:心重ねて

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 僕とミサゴは地下深くに落下してしまった。

 幸い下に積もった砂がクッションになって怪我はしなくて済んだ。


 ここが地下だからなのか、壁や天井が微かに光を放っていて灯りは必要なさそうだ。


 砂の感触が妙だったので観察してみると、砂というにはどの粒も丸く極端に軽い。

 手のひらに砂で山を作り息を吹きかけただけで全て飛び散ってしまった。


「う……うーん」


 ミサゴは気を失っているようだ。

 彼の足が腫れている、さっき襲われた時の怪我だろう。

 骨が折れているといけない、僕は自分の服の袖を破り、それを使い彼の足に添木を固定した。


「……何をしてる」

 応急処置が終わるとミサゴは眼を覚まして無愛想な声で言った。


「念の為に応急処置をね」


「余計な真似をするな」


「憎まれ口を叩く元気があるなら安心だ」

 僕はほっとして笑顔を見せると、彼はむくれっつらをして顔を背けた。


 生命力探知でみんなの位置を確認する。

 ベイルとガルギムさんは無事みたいだ、移動速度からして敵に襲われてるわけでもない。


 他のチームもみんな見事に遠くにいる、助けを待つわけにもいかなさそうだ。

 僕は幻影水晶を使いみんなに無事を伝え、こちらはこちらで動くという事を伝えた。


「連絡終了、さて動かないと、おぶってくから乗って」

 僕はそう言ってミサゴの前で屈んで背中を見せる。


「ふん、誰が人間の手など借りるか」

 彼はそう言いながら軽く足を引き摺りながら僕の横を通り過ぎた。


「素直じゃないんだから」

 僕は苦笑いして彼に続いて歩く。


 洞窟に入るとまた暗がりになり、僕らは琥珀のダガーで生み出した松明で道を照らしながら進む。


 道中何匹ものサソリの影に襲われ、苦し紛れに松明の火で払った影サソリが消えた。


「火で払えば消えるよ!」

 そう叫ぶ僕の言葉を聞いてミサゴも松明の火で影サソリに対処し始める。


「ッ……!」


 ミサゴは足の怪我で満足に動けず、そんな彼が仕損じた分も僕が蹴散らしながら先に進んでいく。

 ミサゴはそんな状況に複雑そうな顔をしていたが、しばらくして痺れを切らしたように口を開いた。


「置いていけ、人間の世話になるようでは生きている意味もない」


「どうしたの急に、怪我してるんだから仕方ないよ」

 いきなり思い詰めたことを言われて少し戸惑いながら答えた。


「お前があの男から聞いた話には誤りがある。俺が漂流していた理由は部隊の全滅のせいじゃない。仲間から足手纏い扱いされた者が船を下ろされ遭難してたんだ」


「それって……」


「俺はお荷物だから捨てられたんだよ」

 ミサゴは光の消えた目で自嘲混じりに言った。


 された側からしたらたまったものじゃない話だ。

 彼の意固地な態度はそのトラウマから来ているのかもしれない。


「力が無ければ何も選ぶことはできない、信用もされず必要ともされない。だから俺は必死で強くなった、もう誰にも必要ないなんて言わせないくらい強く」

 ミサゴは自分の足の怪我を見る。


「なのにこのザマだ」

 彼の心が折れかけているのを感じた。

 消えかけた蝋燭の火のように、生きようとする意思が弱くなっているらしい。


「さっきの人は知り合いだったの?」


「ああ、昔乗ってた船の船長だ、まさか生きてるなんて思わなかったが」

 ミサゴはそう言うと天井を見つめて遠い目をした。


「こんな場所で生きていけるのは宝輪をアイツが持っているからだ、アイツを見つけて捕まえれば手に入る。俺がいては邪魔になるだけだ」


「そっかーよかった」


「なに?」


「ようやく心を開いてくれたから。ミサゴは貸し借りが生じると素直になるんだね」


「それは……違う」


「このまま貸し作りまくれば大親友になってくれるに違いない、きっとそうだ、うんうん」


「いやまて」

 ミサゴは一方的に話を進める僕にたじろいでいる。

 僕はミサゴの嘴に人差し指を突きつけ、彼の目を見た。


「逃げようとしても追いかけて助けちゃうから、大人しく僕と行動する事。文句なら脱出後に聞くから」


 ミサゴは僕の目を見つめたあと「……勝手にしろ」と小さな声で答え目を背けた。


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「ファイヤーッ!!」

 その後僕は雄叫びと共に激しく松明を振り回し踊り狂っていた。


「なにをしている」

 困惑したミサゴが痺れを切らして口を開く。


「せっかくだから楽しく進もうと思って」


 両端に火がついた松明を振り回し、飛びかかってくるサソリを蹴散らしながらついでにダンスを踊る、叫ぶことで僕に注意が集まり一石二鳥だ。


「何かの儀式なのか?」


「ファイヤーダンスだよ、やる?」


 僕はダブルエッジファイヤー松明をもう一本生み出してミサゴに差し出す。


「余計な体力を使わずに進んだ方がいいと思うのだが……」


「ファイヤー!四倍の威力四倍の速度!今の僕の攻撃力は十六倍だ!!」

 僕は両手のダブルエッジファイヤー松明を振り回し、影サソリをダンスで蹴散らしまくる。


「聞けよ」

 ミサゴは困惑しながらも僕の後に続いて歩いた。


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 しばらく進むと影サソリも出なくなり、道も広くなってきた。


「ふう……ッ、……くっ」


 ミサゴが苦しそうな声をあげ、彼の顔を見ると顔色が悪く滝のように汗をかいている。


「ここまでだね」

 僕はそういうと、ミサゴを無理やりおぶって歩き出す。


 弱っていたからなのか、僕を信用してくれたのか、彼は特に抵抗もなく背負われてくれた。


「わ、羽が柔らかくてふかふかしてる。気持ちいい」


「羽の手入れはいつも入念にしている、飛ぶ時に効率が落ちるからな」


「そっか、ミサゴって頑張り屋なんだね」


「なにを馬鹿なことを」

 そう言って口をつぐみながら、彼は少し照れくさそうに顔を赤らめた。


「お前はいつも楽しそうだな、馬鹿だからか?」

 ミサゴは照れ隠しにツンケンした物言いをした。


「言い方がなー、ミサゴと一緒にいるのが楽しいだけだよ」


「変わったやつだ。人間のくせにモンスターにも好かれて、何がお前をそうさせてる」


「ありのままの自分を好きになってくれる、そんな人との繋がりを大切にしてるだけだよ」


「ありのままの自分か、考えたこともなかった」

 そう言うとミサゴは僕をギュッと抱きしめ、目を閉じてため息をつく。


「価値を示さなければ捨てられるとばかり思っていたが。そんな生き方もあるんだな」


「友達になろうよミサゴ。好きなものを語り合ったり一緒に遊んで楽しむ、友達はそれだけで十分なんだ」


「友達、か」


 ミサゴは目を輝かせて僕を見た後はっと我に帰る。

 首をぶるぶると横に振って、頬を赤らめたままむすっとした表情を作り顔を背けた。


「なるほど他人を (そそのか) すのが上手いな、俺には通用せんが」


「ふふ、そうかもね」

 強がる彼が可愛くて顔が綻んでしまう。


「全く災難だ、お前に借りを作る羽目になるとは」


「気にしなくていいよ、こうして二人きりになれたからミサゴの話が聞けたわけだし。君の事を知ることができて嬉しいから」


「言ってろ」

 無愛想を装いながら声が優しい、そんな彼の不器用さが愛しく思えた。


 しばらく進むと開けた場所に出た。

 夜光虫の光で明るく明滅する石柱が並び立ち、自然が生み出した天然の神殿のような光景が広がっている。


 おそらくここが洞窟の最奥。

 その中心の玉座にジェドの姿があった。


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