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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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748回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 533:影法師の示す先

 谷の中は夜光虫のそれに似た光が明滅していた。


「喉乾いたからちょっと待ってくれ」

 谷をしばらく歩いているとベイルが言った。


 彼は近くにあった小さな池に向かい、僕はその青さに気付きベイルの肩を掴んで制止した。


「待ってベイル、この水は飲んじゃダメだ」


「なるほど、よく気づいたね」

 ガルギムさんが感心したように言った。


「水の色が青すぎる、それに魚どころか水藻もない」


「つまり?」


「鉱毒の溶けた毒の水だよ、飲んだら死んじゃう」


「ひぇ……なんちゅー島だよ」


 この島に生き物の気配がない理由がなんとなく見えてきた気がする。

 あまり長居はできそうにないみたいだ。


 しばらく進むと次の洞窟の入り口と、その前を塞ぐように壁から噴き出している毒々しい色をした水の流れる滝が見えた。


 試しに滝の中に木の棒を突っ込むと一瞬で腐食してぐずぐずに崩れ去ってしまった。


 洞窟の中に鎖が見える、あれを引っ張れば滝を止められそうだ。

 琥珀のダガーで植物を生み出し引こうとしたが、環境が悪すぎるのか植物がすぐに枯れてしまう。


 少し思案した後、僕はヒカゲノカズラを大量発生させ毒の滝の前に大量の胞子の滝を作り、それを潜りながら酸の滝に飛び込み通り抜けた。


「なにやってんだ雄馬!?」


「大丈夫!無事だよ。仕掛け動かすね」

 

 ヒカゲノカズラの胞子、石松子と呼ばれる粉は疎水性が高く体に層を作れば水を通さない。

 駄目元でやってみたけどうまく行ってよかった。


「お前さぁ失敗した時のこと考えたことある?」

 毒の滝が止まり中に入ってきたベイルが不服そうな顔をして言った。


「先のこと考えてると動けないかなって、うわ」


「心配する俺の身にもなれってーの」

 そう言ってベイルは僕の顔を舐めくりまわした。


 洞窟の中は再び闇の世界、光は普通に先まで届くようだ。

 足元が砂でできていて歩きやすい。


 松明の明かりを頼りにしばらく進んでいくと大きな空洞に出た。

 下から上の洞穴に続く通路がいくつも伸びている。


「どれか一つが正解ってやつか、どれにする?」

 ベイルは「どーれーにーしーようかなぁ」と言いながら道を決めようとしていた。


 ふと違和感を覚えて周囲の様子を注視すると、影が蠢いているように見えた。

 さらに注意深く見ると、影の塊から人影がちぎれるようにいくつも現れ、ゆらりと動き出す。


 そしてそれは実態を持ち、速度を上げこちらに襲ってきた。

 襲撃に気づかなかったベイルを助けるため間に割って入り斬り裂くが、刃は空を斬り影人の引っ掻きが僕の肌を抉った。


 痛みに気を取られていると「雄馬危ねえ!」とベイルに押し飛ばされ、僕のいた場所に斧が振り下ろされた。


 腐りかけの死体が動きだし武器を持って襲ってきているようだ。

 ミサゴがなにかに気づいて狼狽えている。

 死体はどれも鳥系獣人、彼の昔の仲間なのかもしれない。


「あんた八武衆なんだろ、何か知らねえのかよ!」


「ここは繋がりを試す場所だ、死後自分を案じてくれりような者がいなければ通れない」

 ベイルの問いにガルギムさんは答えた。


「そう言われても、これじゃどれが誰なんだか」


「……こっちだ」

 ミサゴはそう言うと一方に向かい進み出した。


 僕らは彼を見失わないよう急いで後を追いかける。


 彼の向かったのは通路の隙間、暗くて気づかなかったが突き当たりに奥に通じる道があり中に入るとさっきまでいた部屋が倒壊した。


「ふいー間一髪か」


「なんで道がわかったの?」


「……仕草に見覚えのある奴がいたんだ」

 そう言うミサゴはなぜか酷く複雑そうな顔をしていた。


 そこからしばらく進んでいくと、進行先に人影が見えた。

 また敵かと身構えたが、それはどうやら生きている人間らしい。

 海賊の船長のような格好をしたその男はミサゴを見つめていた。


「ジェド!!」

 ミサゴはそう叫んで走り出す。

 男は背を向け奥に歩き去っていく。


 その時、微かな振動が地面から伝わってきた。

 それは次第に強くなり近づいてきているようだ。


「待って、何か様子が変だ」

 ミサゴはぼくの言葉に耳を貸さず、翼を広げて飛んで彼を追おうとした。


「おい、やばいぞこれ」

 振動が大きくなりベイルが焦り出す。


「ベイル、加速お願い!」

 僕は彼の返答を待たずに走り出し、ベイルの加速度操作で飛ぶように走りミサゴに後一歩の距離まで近づく。


 地面から這い出た巨大な虫の足のようなものがミサゴを襲撃し、彼の体を壁に叩きつけた。

 ミサゴはすぐに飛びあがろうとしたが、液体のように流動し始めた砂に足を取られた。


 その隙をつきさらに現れた虫の足がミサゴを串刺しにしようと猛烈な勢いで迫る。


 僕はミサゴに飛びつき攻撃を凌ぎ、虫の足に一撃を見舞う。

 しかし硬い甲殻により刃が弾かれ、姿勢を崩した間に僕もミサゴも流砂に飲まれ地下深くに落下してしまった。

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