747回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 532:試練を越えて
『なんだ騒がしい、いきなり叫ぶな』
僕の頭の中でグレッグが不満そうに言った。
「だって腕が切り落とされて……ってグレッグ?なんで」
頭の中で返事をすると彼はため息をついた。
『さあな、ともかくいきなり頭の中で叫ぶんじゃない。夜中に何度も叫んで寝られなくするぞ』
「それは困る……」
とはいえ彼のおかげでわかったことがある。
グレッグの声が聞こえるってことは、彼の入っている左腕はまだ体にくっついてるってことだ。
「なぁ雄馬、なんか血の匂いがするんだけど大丈夫か?」
ベイルが慌てながら僕に尋ねた。
「ピイッ!?」
僕の返答よりも早くミサゴが怯えたような声を出す。
「なんだ今の声、もしかして手羽先野郎か?」
「……違う」
ベイルの問いに少し間を空けてミサゴの返答があった。
「ははーん、お前まさか暗いのが怖いのかぁ?」
チャンスとばかりにベイルがからかう。
彼のニンマリ笑いが目に浮かぶような楽しげな声だ。
「う、うるさい!お前が急に大きな声を出すからだ」
和気あいあいとした二人の様子から察するに、さっきから延々と体を切り刻まれてるのは僕だけらしい。
そしてそれは多分幻覚か何かの類。
左腕の感覚が無くなってるのはさっき僕が本当に切り落とされたと思い込んだからだろう。
そうとわかってしまえばあとは痛みを耐えるだけだ。
僕はみんなに気づかれないように黙って進み続けた。
しばらく進んでいくと光が見えて、そこから出ると谷底に出た。
「おー外に出た!雄馬すごいな、なんで出られたんだ?」
「目に見えるものって光と影を認識しているにすぎないんだ。影を自由に操れるならそこに壁があるように見せかけることもできるんじゃないかって思ってね」
「灯で照らして届いた光で壁を見ていたつもりだったが、実は壁に見えるように光を遮られていたというわけか」
ガルギムさんが補足するように言う。
ベイルは首を傾げ、理解できていなさそうな顔をした。
「まぁなんだ、仕掛けがわかると大した事なかったなぁ」
「え?」
僕はベイルの言葉に思わず小さな声を出してしまった。
左肩をさするとちゃんと腕はついていて手も動く、でも全身の痛みは残響のように残っていた。
「俺なんか変なこと言ったか?」
ベイルが少し不安げな顔をした。
あの洞窟の中で僕は大変だったんだけど、それを言うのもなんだかカッコ悪いよな……。
「なんでもないよ、みんな無事に出られてよかった」
そう言って僕は笑顔を見せる。
「まったくだ、なぁピーちゃん?」
「次にその名で呼んだら殺す」
体が痛くて楽しげにいちゃつく二人に混ざれないのが悲しい。
そんな事を考えていると、ガルギムさんがなにか察したかのように僕の頭を撫でてくれた。




