746回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 531:暗渠に慟哭ありて
真っ暗で先が見えない中を進むと知らない間に洞窟に入っていた。
松明で道を照らしながら進んでいくと、背後には光が届かなくなっていることがわかった。
さらに進んでいくと平らな岩壁に何か書いてあるのに気付いた。
見たことのない言語だ。
その下に壁に縋り付くのようないくつもの白骨死体があった。
「八武衆にしか読めない言葉だ」
ミサゴがそう言うと、ガルギムさんは無言で歩み出て文字を読む。
「『心弱き者は彷徨い朽ち果てるだろう』と書いてある」
「わかるか?」
ベイルは首を捻ると僕に尋ねる。
「さっぱり」
見たところこの先は普通に灯りが届く迷宮らしい。
僕らはとりあえず普通に進む事にした。
曲がり角に数字を書き頭の中に地図を作りながら進んでいくと、一周して元の場所に戻ってしまった。
「おいおいマジかよ」
ベイルが声を出した。
出口がなくなり壁になっていたのだ。
「なるほど、心が弱ければ動揺して死ぬだろうな」
ミサゴはベイルを鼻で笑いながら言う。
「んだとぉ?」
「誰もお前のこととは言ってない、はしゃぐな」
ミサゴは明らかにベイルを挑発するように冷たい目をしながら言った。
殴りかかろうとしたベイルを取り押さえながら、僕は壁の文字を読み直す。
「壁になにか仕掛けがあるわけでも無い……、うーん心弱き者か」
僕は壁に縋り付く骸骨の眼窩を見た。
絶望の色、恐怖の闇。
「灯を消して進もう」
「そんな事してなんになるんだ?」
馬鹿を見るような目をしてミサゴは僕に言った。
「何も見えなくて危ないんじゃないか?」
ベイルも僕に気遣いながら言った。
「一度見た道だし、試してみたいんだ」
そういう僕の目をガルギムさんはじっと見た後、松明の火を消した。
「おい、勝手に消すな」
ミサゴがなんだか少し慌てた様子で言う。
「僕のところに一度集まってもらって良い?肩に手を置いて一列になって進もう」
「わかった」
そう言ってベイルが僕の方に手を置き、その次にガルギムさん、ミサゴも不満げに続く。
それを確認した後僕の松明も消し、僕らはまっすぐに歩き始めた。
そろそろ壁に当たる頃だ。
「僕の予想が確かなら…」
呟きながら僕はノーガードで壁にぶつかる…つもりだったけど、どうやら目論見通り通り抜けたみたいだ。
一安心した途端左肩に激痛が走った。
左肩を触ると肩から先が無くなっていた。
「え?」
理解した瞬間血が吹き出し焼け付くような痛みが襲ってきた。
「……ッ!!」
みんなを驚かせないように歯を食いしばり声を押し殺し、頭の中で絶叫した。




