745回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 530:スタートライン
目印の場所で明かりを照らすと光が一方向だけ島側を照らした。
このルートなら先に進めそうだ、光の先には次の目印が見える。
「手がかりはできたが、無策で誘いに乗るのはリスキーだワイな」
ブロックさんは周囲を何かの器械で測定しながら渋い顔をして言った。
「今のところ一本道だが、先を見越して複数のグループで探索した方が良さそうだな」
クガイはそう言うと、僕を見る。
「何かあった時のために少数精鋭で行くのはどう?」
「それでいこう、そいじゃ三班にわかれて探索だ」
僕らはそれぞれの船のメンバーを戦力的に均等になるよう分配し、三班に分かれて進むことになった。
僕のチームは僕にベイル、ガルギムさんとミサゴ。
他二班もそれぞれのメンバーが交互に配置され、なんだか合コンで肝試しイベントでもしてるような気分だ。
紅蓮地獄の一般船員達とヤブイヌ達とガフールさん達は何かあった時のために船に残ってもらった。
ミサゴは僕を目の敵にしてるようだから不安だったけど、組み分け通りに集まってくれた。
「来てくれたんだ」
少し嬉しくてお礼がてら声をかけると、彼は不機嫌そうな顔をして僕を睨んだ。
「何かあったら斬る為だ、人間と裏切り者は信用できない」
「やれやれ酷い言われようだな」
ガルギムさんがそう言って僕を見る。
気にしてないよと笑顔を見せると彼は仮面の下で優しい目で微笑んだ。
「俺あいつ嫌い」
ベイルはミサゴの同行が気に食わないらしく文句を言うと口を尖らせた。
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奇妙な暗路を進んでいくうちに、それぞれの班の光の照らす先が別方向しか照らさなくなった。
「罠、かな?」
「そうだとしても行くしかねえ、いざという時は雄馬の精神感応が頼りだ。連絡したい時は銃声を上げるよろしく頼むぜ」
「任せて、みんな気をつけて行こう」
僕の言葉に三班みんなよしっと答え、それぞれ先に進むことになった。
「さっさと用事済ませてこんな薄気味悪いとこおさらばしようぜ」
ベイルは僕の手を握りながら言った。
「生命力探知で皆の位置を把握、幻影水晶で連絡もとれる。さすが魔王候補者だ、君がいれば安心だな」
ガルギムさんが僕を褒めた。
「おだてすぎですよ、照れちゃいます」
なんだか照れくさくてもじもじしている僕をミサゴがただならぬ雰囲気で睨みつけた。
「どうしたの?」
僕の問いに答えず彼は先に進んでいく。
そんな彼にガルギムさんはやれやれ困った奴だと呟いた。
「少し浮かれすぎちゃいましたね」
「気にしなくていい、彼は少し気難しくてね」
「だろうなぁ」
ミサゴがピリつくのも無理はない。
狭い範囲しか調べていないけれど、この島に微生物の生命力すら感じない。
警戒を絶やすべきではない状況ではある、そしてミサゴがそれを理解しているという事は。
「もしかして彼、この島に一度来たことがあるんですか?」
「鋭いね、その通りだ」
ガルギムさんはそう言うと、携帯火口を使い葉巻に火をつけ紫煙を燻らせ経緯を話し始めた。
死んだ三人の溟海八武衆はそれぞれ死ぬ間際に宝輪を隠した。
ミサゴは昔インガの部下で、宝輪の回収のためにある部隊の一員としてこの島に来た。
しかしその時部隊は数人を残して全滅、辛くも島を脱出し漂流していたミサゴ達を紅蓮地獄が助けた。
「そんな事情があったんですか、どうして今はブレーメン海賊団に?」
「インガが自分のとこにいるよりクガイの下にいた方が見えるものもあるだろうからと預けたんだ。クガイに無茶ばかりさせられて腕っぷしは上がったものの、この島での経験のせいかどうにも性格が捻くれてしまってね」
ガルギムさんがそこまで言うと、ミサゴが不満そうな顔をしてこちらをギロリと睨みつけてきた。
「とまぁこんな具合さ」
ガルギムさんはやれやれといった様子で言う。
「こう見えて仲間思いでいい奴なんだ、悪く思わないであげてくれ」
「もちろんです」
僕は笑顔でうなづく。
「人間のような貧弱な奴は仲間と認めないがな、それに裏切り者にとやかく言われたくないね」
ガルギムさんを心底軽蔑するような言い方をする彼に僕は少しムッとした。
「僕はともかくガルギムさんにその言い種はないんじゃない?」
「事実を口にしたまでだ」
彼は悪びれる様子もなくツカツカと進んでいく。
「すまないね」
ガルギムさんはバツが悪そうに言った。
「ガルギムさんとはもう仲間だと思ってますから、当然ですよ」
「……仲間、か」
彼は呟くと少し悲しそうな目をして笑った。




