744回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 529:影牢島
光る海流が血管のような流れを作って島に吸い込まれていく。
吹く風も息が詰まるように生ぬるい、まるで島に吸い寄せられているかのようだ。
島に上陸すると、風の音なのか呻き声のようなものが断続的に聞こえてくる。
海岸から島に近づくに連れて灯りで照らしても、光が闇に飲まれるように先に届かなくなる。
紅蓮地獄の船員達が何かを見つけて僕らを呼んだ。
そこに向かうと地面に打ち付けられた杭に布が巻き付けられていた、布は風雨にさらされて朽ちている。
何かの目印のようだ。
それを見てミサゴは神妙な面持ちになり、先を急ごうとする。
ふと明かりの中を横切る人影が見えて、僕はミサゴに「待って、今何か通りかかったような」と声をかけ、肩を掴む。
次の瞬間頬に強い衝撃を受けて、僕は思わず彼から手を離した。
頬を殴られたらしい、ミサゴは不愉快そうに顔を歪めて「気安く触るな人間」と吐き捨てた。
「おいなんだよテメェ!」
ベイルが怒鳴る。
「やっちゃおうか?カシラ」
とヤブイヌ達がミサゴに牙を剥く。
「大丈夫、いきなり触った僕が悪いんだ。ごめんねミサゴ」
彼は不愉快そうにフンと鼻を鳴らすとさっていった。
なんだか様子が変だ。
「すまねぇな雄馬」
クガイが僕に声をかけた。
「なんだか彼焦ってるみたいだ、危なっかしいよ」
僕はミサゴが心配でそういうと、クガイはそうだな…とどこか自分に言われたかの様なバツの悪そうな顔をした。
みんなの様子を見るに、光の中になんか人影みたいなのが見えるのは僕だけのようだ。
多分この声のようなものが聞こえるのも。
そう思うと少し怖くなってきた。
「頬が痛むのか?」
ベイルが僕の様子に気づき駆け寄り頬を撫でてくれる。
彼の肉球が頬をひんやりとさせて気持ちいい。
僕は彼のその手を握り目を閉じる。
「こういうシチュエーションって少し苦手で、手握っててもいい?」
そう言うと彼も僕の手を握り返してくれた。
「二人でいれば怖くねえかんな」
そう言って彼は開いた方の手で僕の頭を撫でて、優しい笑顔で励ましてくれる。
クガイが僕の空いてる方の手を握った。
「楽しそうだな、俺もまぜろぉ」
クガイに対してベイルがチェッと言うと邪魔者扱いする様な目をする。
クガイはニヒヒと嫌がるベイルの反応を楽しんでいる様だ。
二人の様子に僕は笑う。
「遠足みたいでキンチョー感ないにゃお前ら…」
そんな僕らの様子を見たリガーがやれやれと呟きながら周囲の様子を探っていた。




