742回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 527:彷徨う心に触れて
夜も更けて、酔い潰れた海賊達の中ブロックさんがなにやら夜光虫の流れを測定し地図に書き込んでいる。
話を聞くとこの海流にたどり着くためにメダリオンで海の生き物にガイドしてもらう必要があったらしい。
夜光虫が生み出すムーンロード、夜の間にしか存在しない海流。
その先に第三の宝輪がある。
酔い潰れた獣人海賊にひっそりマッサージをしてビクンビクンと跳ねる体を見て楽しんでいると、クガイが僕のそばにやって来た。
「みんな酔い潰れてるけど大丈夫なの?」
「今のとこ問題ねぇ、水ぶっかけりゃ起きるだろうしな」
クガイは僕と何か話したそうな目をした後操舵輪に向かった。
僕は彼の後に続き、操舵輪に手をかけた彼の目を見る。
彼の目は過去を懐かしむような寂しげな目をしていた。
「15年前俺は親父に宝輪を渡されて一人でこっちの世界に戻された。あの時親父は俺に何を思って宝輪を託したのか、ずっと理由を探してるんだ」
「そのために蒼穹氷晶を探してるの?」
「海賊としてあれこれやっちゃみたが、デカくなるのは図体ばかりでちっとも届きそうにないんでな」
そう言って彼は空に現れ出した禍々しい色のオーロラを見る。
まるで何かの怒りや憎悪を思わせるそれは、その直下の島を焦土に変えていく。
「あれが邪神の……」
途方もない混沌の力の余波が伝わって左腕が焼けそうに痛む。
「あのオーロラは邪神の力の断片だ、オーガスティン諸島の街をいくつも焼き払っている。邪神が絶海から出ようと踠く度に現れる、蒼穹氷晶の力が弱まった事であそこまで影響が強くなってる」
「早く僕らで邪神を倒さなくちゃ」
そういう僕の目を見てクガイがニッと笑顔を見せる。
周りに人目もなく、なんかいい感じの雰囲気だ。
僕は少しドキドキした。
「お前男でもいける口だったりするか?」
「え?あっちょっ」
クガイは返答を待たず僕を抱きしめ頬にキスをした。
「どうしたのいきなり」
「雄馬に俺の事を知って欲しくなったんだ」
彼はそういうと僕に甘えるように頬擦りをする。
胸の奥の母性本能じみた何かがくすぐられるのを感じた。
「僕達まだお互いの事もよくわかってないのに、いけないよ」
そういうと彼は笑う。
「海の男は懐が深いのさ、お前次第だ。嫌じゃなければ今夜どうだ」
「僕の誤解じゃなければ、肌を重ねる的な意味だよね?」
尋ねるとクガイはうなづく。
「だぁめだ」
ベイルがぬるりと現れそう言って僕をクガイから引き剥がした。
「ゆーまはなぁ、俺のらんなさんなんりゃから、わたさねぇーかんなぁ!」
お酒でベロンベロンになりながらもベイルはクガイに必死に抵抗した。
それをみてクガイは一瞬寂しそうな顔をして、すぐに笑い出した。
「だはは、こりゃいけねえ。略奪愛はうちじゃ御法度だ」
彼は頭を掻きながらバツが悪そうにそう言って踵を返す。
「でもまぁ、お前さえ好きゃいつでも来て良いぜ?待ってるからよ」
振り向きながらそう言うと彼はその場からさっていった。
「クガイ……」
「なぁ雄馬ぁ…、なんかあいつさぁ…」
「うん、迷子の子供みたいな目をしてた」




