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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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740回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 525:海獣レース

 翌日、朝起きると部屋にベイルの他にヤブイヌ達も集まって寝ていた。


「え?何この状況?」


 戸惑いながらもベッドに群がるように寝ているヤブイヌの頭を撫でると、ヤブイヌは嬉しそうな顔をして「むにゃ…カシラぁ」と呟いた。


 可愛い、もふもふパラダイスだ。

 正直すごく興奮している、心当たりがなくて不可解ではあるけど。


「うわなんだこれ」

 目を覚ましたベイルが仰天すると僕をじとっと見る。


「雄馬ぁ、お前こいつらにあれやっただろ」

 そう言って彼は両手を掲げてにぎにぎした。


「みんなが疲れが溜まってると思って軽くやったけど」

 マッサージ中、妙にヤブイヌ達の感度がいいとは思ったが。


「もしかして堕としちゃった?」


 そう尋ねるとベイルは頭を押さえてため息をつき、首を縦に振った。


「責任取れよぉ、一回あれの味覚えると定期的に欲しくて仕方なくなるんだから」

 そういって彼は僕に頬擦りして撫でをねだる。


 頭をわしゃわしゃと撫でると彼は迫力のある歯の並んだ口を開き、顔いっぱい皺くちゃ笑顔をしてケケケァアアッとハイエナ特有の独特な声をあげて喜んだ。


 突然船が大きく揺れ、ヤブイヌ達が飛び起きた。


「なんだなんだ?」


「少し様子を見てくるよ」


「俺も行く」

 ベイルは顔を叩いてベッドから飛び降りた。


「みんなカシラに続け」

 アーバンの声にヤブイヌ達も応!と答え、みんなで甲板に出る。


 甲板には既にガフールさん達が出ていた。

 パラディオンと紅蓮地獄を取り囲むように巨大な海獣や巨大蟹などが並走している。

 巨大怪獣の動きで生じた高波で船が揺れていたらしい。


「どうなってるのこれ」


「クガイの奴が何かやらかしたらしい」

 ガフールさんは呆れたようにそう言うとクジラの頭に指をさす。

 そこにはクガイがクジラライディングを楽しんでいる姿があった。


「おー雄馬!楽しいぞお前も乗れよ!!」

 彼がそう言うと胸に下げたメダリオンから混沌侵蝕の波動が広がり、巨大なホオジロザメが海中から飛び上がり、体を捻りながらパラディオンの甲板上を飛びこえつつ僕を見た。


「海軍に居場所を気付かれる、目立つことはやめろ」

 ガフールさんがクガイに言う。


「こんな面白えもん手に入れたんだから遊ばなきゃ損だろーが!」


 クガイの返答にあわせるかのように紅蓮地獄の船員達が「ひゃっほーう!」と声を上げ、イルカにまたがりレースをしている。


 ベイルがそれを見て羨ましそうな顔をして僕は笑った。


「僕らもレース参加してもいい?」


「雄馬殿!?」


「せっかくですから」

 ガフールさんに笑顔でそう答えると船から飛び降りる。


「そうこなくっちゃ!」

 ベイルが喜び僕に続き、ヤブイヌ達も次々に飛び降りてきた。


 生命力探知で高速で近づく生き物を感知し姿勢を整える。

 シャチが海から飛び出し僕を受け止め高速で海を泳ぐ。


 ジェットスキーに乗っている感覚で想像以上に気持ちいい。

 イルカに乗った海賊達をごぼう抜きにし、ブイのコーナーにさしかかる。

 僕は体重移動をかけシャチを海面を滑るようにドリフトさせコーナーを内側で回り切る。


 突風が吹き目の前を海賊の帽子が飛ぶ。

 気を取られた海賊のイルカが眼前に飛び込んできた。


 イルカは大きくて650Kg対してシャチは最大10Tにもなる体格差、加えてこの速度では相手を大怪我させてしまう。


 僕は幻影水晶でシャチに意思を伝え、手の力でシャチの背中をジャンプし、シャチが僕の足を尾鰭で叩き上空に飛んだ。


 シャチはそのまま水中に潜りイルカを回避。

 僕は体を上下反転させ蹴りで帽子を捉える。


「返すよ!」

 そう言って体をきりもみ回転、オーバーヘッドシュートの格好で帽子を海賊の頭に飛ばして被せると、海から顔を出したシャチの鼻先に着地して直立姿勢で海を滑るように進み一位でゴールイン。


 後続は巨大クラゲに捕まる形のリガーと、イカに乗ってサーフィンするヤブイヌ達、それにいつの間にか参加していたマグロに食らいついたリガーもいてみんなわちゃわちゃしている。


 その様子を見て笑っているとシャチが上機嫌にピューイと鳴く。

 僕を讃えてくれているらしい。

 シャチの群れが周囲から顔を出して大合唱になる。


「ありがとう、楽しかったよ」


 シャチはどういたしましてと言うように鳴くと優しい目をして僕を見た。

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