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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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738回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 523:悪友との付き合い方

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「監禁というにはいい部屋だね」

 クガイとともに連れてこられた部屋を眺め僕は率直な感想を口にした。


 というかいい部屋すぎる。

 この部屋もちょっとした家くらいの広さと、小さな庭くらいのバルコニーがある。

 悪く言ってもスイートルームって感じだ。


「多分この部屋が都合がいいってことだろうな」

 クガイは海を眺めながら言った。


 何にとっての都合だろう?

 それにさっきのインガの言葉も気になる。


「クガイの宝輪が危険ってどういうこと?」


 尋ねると彼は首に下げた操舵輪を模した首飾りを手に取り、昔を懐かしむような顔をした。


「この宝輪があれば絶海から帰ることができる、これが無ければ誰も出られない、この世界を作った神の一柱、邪神であってもな」


「それって」


「そう、こいつがあれば邪神ラヴォルモスはこちらの世界に帰還できる。逆に言うとこれが無ければ蒼穹氷晶の力がどれだけ弱まっても出てくることはできない」

 そういうと彼は僕を見た。


「つまりこの地方を犠牲にして世界を守るか、邪神を倒す可能性に賭けるか……」

 僕がそう言うとクガイは口を開く。


「男なら選ぶまでもないだろ?」


「難しい話だけど、その考えは嫌いじゃないよ」


 僕の返答にクガイはニヤリと笑った。


「なら俺が今からすることも笑って許してくれよな」


「え、事と次第によるけど」

 この場は彼に任せるほかなさそうだ。


 クガイは窓から外を見る。

 彼の横で同じ方向を見ると紅蓮地獄に向かい近づく船が一隻。

 帆の風のはらみかたにしては妙に速度が遅い気がする。


 クガイはそれを見て「あの野郎やっぱりそういうつもりだな」と口にした。


「どういう事?」


「まぁ見てな」


 クガイはそういうと鏡を使い光を反射させ紅蓮地獄になにか合図を出し始めた。

 それを受けた紅蓮地獄は回頭し、チカっと光を放った。


「だあ!?あいつらこっちに撃ちやがった!!」


 クガイが突然僕を押し倒し砲弾が着弾して部屋がめちゃくちゃに弾け飛ぶ。


「うはっなにやってんの!?」


「脱出の準備だよ、ちと予定と違うがな」


 クガイに押し倒された姿勢のまま、僕は文句を言おうと彼を見上げてハッとした。


 がっしりとした筋肉質な巨漢のシャチ海賊のクガイ。

 こうしているとカッコよくてドキドキしてくる。


「どーしたよボケッとして」


 クガイは惚けた僕の顔を見て不思議そうな表情をすると、瓦礫を押しのけ立ち上がる。

 どういう仕組みなのか砲弾にはロープがくくりつけてあり、そのロープはこの部屋から紅蓮地獄に続いているようだ。


 インガの部下たちが怒声をあげて押し寄せてきて、僕らはロープにベルトを引っ掛けて滑り降り始めた。


 追手が後ろから放つ銃弾を横回転したり、弾みをつけて飛びながら避ける。


 建物の高台で待ち受けていた敵の斬撃を交わして蹴り飛ばし、足の白羽どりでサーベルを受け止め地面に投げ飛ばし、僕らはみるみる紅蓮地獄に近づいていく。


 しかしロープを切られて落下。

 そんな僕らを通りかかったパラディオンの帆が受け止めた。


「紅蓮地獄が砲撃したから慌てて船を出したけど正解だったみたいだな」

 僕を受け止めたベイルがにこやかに言う。


「ありがとうベイル、みんな助かったよ」


「よっと、だがそうも言ってられないみたいだぜ」

 ドシンと音をさせ着地したクガイは包囲網を展開し始めたインガの海賊船団を見て言った。


「ガフールさん行けますか」


「愚問だな、海賊なんぞに遅れを取るものか」


 ガフールは言葉通り砲撃の雨の中船を無事に紅蓮地獄の側まで辿り着かせると、クガイは風の刃ゼフィロスで二隻の船をその海域から脱出させた。


「なんだかやけに簡単に逃げ切れたね」

 遠ざかる海上都市を見つめながら、僕は小さな疑問をつぶやく。


「あの野郎こうなるのを見越してたのさ」

 そう言うクガイの手にはインガのメダリオンがあった。


「あっ!それいつのまに?」


「あいつに掴みかかった時に失敬したんだが、そりゃあもうとってくださいと言わんばかりの警戒のなさでな」


 海上都市を見つめるクガイの視線の先には、僕らを眺めているインガの姿があった。

 彼はニヤリと笑うと去っていく。


「そうか、渡したんじゃなく盗まれたって事なら責任が及ばないから」


「姑息なことをさせたら世界一だなあのオヤジは」


「都合がいいって砲撃されることも見越してのことだったの?どうしてそこまでしてくれたんだろ」


「宝輪を集めるのはもう一つの意味があるのさ、全て集めたものが八武衆の長になるっていうしきたりがな。あいつその役目を俺に押し付けるつもりだ」


 たしかに現状大黒柱になってるインガに離反されないよう、彼が八武衆の長をやらされるのは避け難い状況だろう。


 そうなると自由な活動はより一層制限される、そう考えれば溟海八武衆の長の座をクガイが取るのは多少の犠牲を払っても十分元がとれるわけだ。

 

「キャプテン、インガの兄貴から補給物資と資金もたんまりいただいてます。それと言伝です。『今日の借しは出世払いってことにしといてやるよ』だそうで」

 イタチ獣人のトマはそう言うと苦笑いをした。


「随分高い借りになっちまったが邪神をぶっ倒して、のしつけて返してやるぜインガ」


 クガイは悪友に別れを告げ、僕らは次の目的地へと進路をとった。


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