733回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 518:海上都市ドゥルシネア
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「へっくち」
「大丈夫か雄馬」
ベイルが心配そうに僕に手拭いを渡してくれた。
「ありがとう、誰かに噂でもされたかな」
あのあと僕はベイル達にボートで救出され、パラディオンまで戻ってきた。
甲板にはクガイとトマが僕の様子を見にやってきていた。
「いやーまいったまいった、インガのやろう宝輪の力で海洋生物を操って罠を仕掛けてやがったみたいだな」
クガイはだははと笑いながら言った。
「笑い事じゃないですよキャプテン。あんな狭いとこじゃキャプテンの剣も使えないし、雄馬の兄貴が居なきゃどうなってたか」
「僕もミサゴに助けてもらったし気にしなくていいよ」
と言いつつ、本音はそんなことよりずっと気になるものがあった。
海に浮かんだ都市、それにそれを取り囲み出したなんか物々しい雰囲気で武装した船団。
砲塔はもちろんこちらを向いている。
海賊の街なんだよね?僕は少し不安になった。
「キャプテンやっぱインガの兄貴まだ怒ってますよ」
「そうかもしんねぇな、さてさてどうするか」
クガイは頭を掻きながらそういうと、僕をじっと見つめてニヤッと笑う。
「ということでだ、お前の船貸してくれ」
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クガイと紅蓮地獄の一部メンバーを乗せてパラディオンで進むと、船団は通り道を開けてくれて僕らは海上都市ドゥルシネアに進んだ。
近付くほどにその奇妙さが際立ってくる。
賑やかな繁華街が地上から切り取ったみたいに海に浮かんでいるのだ。
土台を見るといくつもの大きな船をつなげて一つの街にしているようだ。
多分移動する時はバラバラの船に分かれて移動するんだろう。
船着場に向かうと厳戒態勢の中、豪華な服に身を包んだやけに貫禄のある丸っこいエンペラーペンギンが仁王立ちで待ち構えていた。
「パラディオンが来たってんで見に来てみればテメェか、チッ」
船着場に降りたクガイに対してペンギンは憎々しげに言った。
彼の周りの獣人達もしかめ面をしている。
「なんかめちゃくちゃ嫌われてない?」
僕がそう尋ねるとクガイは苦笑いして「いろいろあってな」と答えた。
「この船の乗員はどうした」
ペンギンは少し気がかりな様子でクガイに尋ねた。
「そういやこの船はどう手に入れたんだ?」
クガイからキラーパスが来て、ペンギンと部下達の視線が僕に注がれた。
正直に話したほうがいいか迷いアーバンを見ると、彼はうなづいて見せた。
「この船の船員はグールに……、仲間を助ける為に僕が全員殺しました」
「ちょっ雄馬!」
ベイルが驚いて声を上げた。
ペンギンは一瞬厳しい顔をして僕の顔を直視すると、目を伏せた。
「そうか……俺達の仲間が世話になったな」
「へ、それだけ?」
あっけに取られたベイルがうっかり口にして、慌てて自分の口を塞いだ。
ペンギンは気にする様子もなくキセルに火をつけ紫煙を燻らせる。
「グールになっちまったらどうしようもネェ、引導渡してくれて奴らも感謝してるだろうさ」
ペンギンの言葉に賛同するように周囲の付添人達も小さくうなづく。
「立ち話もなんだ、場所を変えて要件を聞こう」
ペンギンはそう言って歩き出し、僕たちもその後に続いた。




