729回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 514:戦う為の技術
その後僕はヤブイヌ達にせがまれて稽古をつける事になった。
今回はみんなに組み手をしてもらい個々人の実力差を見る事にした。
様子を伺っていると一人のヤブイヌに目が留まった。
動きが周りに追いつかず戦う相手全員に負け続け床に転がっている。
「お前相手だと弱すぎて練習にならねえよ」
相手をしていたヤブイヌが不満そうに吐き捨てて去っていく。
負けたヤブイヌは悔しそうに俯いていた。
「彼にしよう」
僕はそんな彼に声をかける事にした。
「君ちょっといいかな」
「カシラ、なんですか?」
怒られると思ったのか彼は不安げだ。
「少しだけ打ち合わせをしよう、僕の指示した通りにやってみて」
僕はそう言って彼にいくつか戦い方の指示をした。
「さてと、それじゃ気を取り直してもう一戦行こう。そこの君、彼ともう一度組み手をお願いできるかな」
「いいけどよぉ、あんま意味ないと思うぜ?」
「ありがとう、あ、そこの君もいいかな。二人で同時に彼を襲って欲しいんだ」
「正気か?怪我しちまうぞ」
「む、無茶ですようカシラぁ」
「大丈夫大丈夫、僕を信じて」
笑顔で彼の背中をポンポンと叩くと、ヤブイヌ達三人は組み手のポジションについた。
僕は少し距離を置いて様子を見る。
「何話したんだ?」
ベイルが僕に尋ねてきた。
「まずターゲットを決めて目を見るんだ。距離が近くて目が合ってると複数人が相手でもその一人から来る、乗ってこない時は挑発してみてもいい」
僕が解説するのと同じタイミングでヤブイヌが動く。
「そうしながらステップを踏んでリズムをつけ、今の自分の最速まで速度を上げる」
ヤブイヌが速度を上げてフットワークで攻撃を回避し、有利なポジショニングを取る。
「右で殴るぞと溜めを見せつけ、近づいてきた相手に体を左にずらしながら踏み込み、その勢いで左のジャブを放ち顎の下を打つ」
ヤブイヌはフェイントで相手を翻弄し、一人気絶させた。
「次の敵が来て攻撃してきたらバックステップ。体を反転させて相手の攻撃ラインの外側に回り、踏み込み溜め込んだ右で顎を打つ」
ヤブイヌは攻撃を交わしもう一人も見事昏倒させた。
それを見ていたヤブイヌ達が感嘆の声を上げる。
戦っていた本人も目を輝かせて喜び僕を見て笑う。
「カシラ!見ててくれましたか、俺やりましたよ!」
嬉しそうな彼に僕は笑顔で拍手をおくった。
「多少の身体能力の差や数の不利なら技術で埋められるんだ、今日はそれをみんなに教えたくて」
「さすがカシラだぜ、俺にも教えてくれよ!」
「待てよ俺が先だ!」
我も我もとヤブイヌ達が押し寄せてきた。
「組み手を見せて貰って改善点を指摘していくから、みんなどんどん戦って」
「よっしゃやるぞ!」
ヤブイヌ達は意気揚々と組み手を再開し始めた。
みんな最初の頃に比べてめきめき動きが良くなってて教え甲斐がある。
「なぁ雄馬、俺にも今度教えてくれよ。うかうかしてたらこいつらに抜かれそうだ」
ベイルが困った顔で言った。
「ベイルは先輩だから特別ハードに教えるね」
「お?おう、お手柔らかに頼むぜ」
ベイルは少し困った顔をしながらうなづき僕は笑った。
「やってるな」
クガイが来るとそう言った。
「ねぇクガイ次はどこに行くの」
「次の目的地は海賊の海上都市、八部衆の一人がそこの代表をしてるんだ」
「前に言ってた君の親友のところ?」
「あー、まぁそんなとこだ」
彼は若干バツが悪そうな顔をしながらはぐらかすように言う。
そんな彼をベイルはどことなく警戒した。
「うちのメンバーの紹介がしたいから、後で昼飯食いにこいよ」
「お言葉に甘えてお呼ばれしようかな」
「それじゃーな」
クガイはそう言って去っていった。
「なーんか胡散臭いんだよなあいつ」
「なにかあったら僕が対処するよ」
そういいながら訝しがるベイルの頭を撫でると、彼は少し不満そうな顔で僕を見る。
「一人で背負おうとするの癖になってるぞ、俺も頼れよな」
「うん、ありがとうベイル」
その気持ちが嬉しくて僕は軽く彼を抱きしめた。




