720回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 506:障壁
ベイルと一緒にリガー達の拘束を解くと、僕は晒されてる獣人達の亡骸に手を合わせた。
「あんまり気負うなよ」
ベイルが僕の肩を叩く。
「処刑されても仕方ない事をしたのかもしれないしにゃ」
リガーは肩をコキコキと鳴らしながら言う。
「気分的に少しね」
「明日は我が身で怖くなったかにゃ?」
リガーの言葉に僕はぎくりとした。
僕がどうなろうと構わないけれどみんながこんな目にあったらと思うと、胸がざわついて落ち着かない。
「お前なぁ!」
ベイルが耐えきれなくなりリガーの襟を掴んで持ち上げる。
「助けてもらっておいてその態度は何だよ、雄馬はお前達のこと気にかけて苦しんでたんだぞ」
ベイルの言葉を聞いてリガーは一瞬申し訳なさそうな顔をした、しかしすぐに彼をバカにするような表情を作る。
「助けに来るのは早計だったにゃ、これくらい自分で何とかできたにゃ」
リガーの言葉に逆上して彼を殴ろうとしたベイルを僕は後ろから羽交締めにして止めた。
僕はリガーの目を見つめて決意を伝えると、彼は目を伏せ首を横に振った。
盗賊として裏稼業の世界を知っている彼なりの気遣いだったんだろう。
僕も知らないわけじゃない、全て理解した上で助けに来たんだ。
伝わったかどうか不安になった僕を見て、マックスが静かにうなづいて見せてくれた。
「行こう、みんなで脱出するんだ」
処刑場から外に出ると海賊達が海兵と善戦していた。
戦闘可能な海兵も少なくなってる様子だ。
出てきた僕らを見て海賊の一人が声をあげた。
「待ってたぜ!退路は用意した、さっさと行ってくんな!」
よく見ると海賊達が海兵を阻む道を作り、僕らを導いてくれていた。
その状況にリガーが目を丸くする。
「男子三日会わざれば刮目してみよとは言いますが…」
マックスも驚愕し、ダルゼムさん達は海賊達に怯えているようだった。
海賊の作った道を走り船の停泊場までやってくると、そこを警備していた海兵達に周囲を囲まれてしまった。
しかし突然ブーメランが周囲を飛び交い始め、海兵が動揺しはじめた。
「カシラぁ!迎えに来やしたぜ!!」
ヤブイヌ達が僕らを迎えに戻ってきていたようだ。
彼らは動きながらブーメランを投げ、海兵の攻撃を避けながら撹乱していく。
そんな混乱の最中に後続の海賊達が雪崩れ込み、停泊場にいた海兵達を海に叩き落として軍艦を奪い脱出し始めた。
その様子にリガーが白目を剥いて震えている。
「思ってたより大事になっとるッ!!」
彼はそう叫びをあげた。
「大砲の音が派手にしてるとは思いましたが、まさか基地を壊滅させる規模だったとは」
マックスさんも困惑気味だ。
「俺らもしかして結構ヤバい事してる?」
ベイルが尋ねるとリガーとマックスは口を揃えて「非常にヤバい」と答えた。
「事情は後で話すよ、今は脱出を急ごう」
僕は苦笑しながら二人をなだめた。
ヤブイヌ達の海賊船に飛び乗り、急いで帆を張り出航する。
しかし次の瞬間、周囲の軍艦がいくつか、どこからか飛来した砲撃により粉砕されてしまった。
「あ、わわわ、こりゃまずい」
ダルゼムさんが震え上がりながら沖の方を見ている。
同じ方角を見るとそこには他の軍港から来た艦隊が障壁のように押し寄せてきていた。




