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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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719回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 505:ターミナルヴェロシティ

 処刑場内部は構造が闘技場のアリーナに似ていた。

 客席まであるあたり、処刑を見せ物として披露しているらしい。


 晒し者にされたモンスターの死体が無数に磔にされている。

 みんな大きな針のようなもので全身を貫かれていた。


 アリーナの最奥には杭に体を拘束され、猿轡されたリガーマックス魚人さん達の姿。

 そして宙に浮かんだ巨大なムカデがゆったりとアリーナ外周を回遊している。


 客席には海兵に守られた軍港の責任者と見られる貴族もいる。


「あの化け物も何かする様子もないし、今なら行けるぞ!」

 ベイルがそう言って近づこうとする。


 リガー達が首を振りながら猿轡されたまま叫んだ。

 僕はなにか殺気めいたものがベイルに向いた事に気づき、彼に向かって走り押し倒す。


 ベイルの腕を針が掠めて地面に突き刺さった。


 あのムカデの攻撃だろうか?

 でも何か違和感がある。


「やりやがったな!」


 ベイルが足元の石をムカデに投げ加速するが針で撃墜された。

 衝撃の大罪魔法の斬撃を使おうとしても、針がこちらを襲ってきて狙えない。


 植物の重力でムカデを落とそうとしても、そのために出した杭を力の発動前に粉砕されてしまう。


 次第に僕らに向かって針による攻撃が行われ始め、僕とベイルは背中合わせになり飛来する針をそれぞれの武器で弾く。


「攻撃が飛んでくる場所がわからねぇ、見えない敵がいるのか?」

 ベイルはそう言って攻撃を弾くのに苦心している。


「飛んでくる針はみんな斜めの状態で飛来してくる、つまり横運動がかかった攻撃だ。それなら」


 生命力探知をすると、アリーナの中に目に見えないほどの速度で動き回る三つの生き物がいるのがわかった。


「あのムカデの他に高速で動いてる小さいのが三ついる、それがこの攻撃の正体だ」


 そう言う僕をムカデがジロリと睨みつける。


 恐らくあのムカデから指令を受け攻撃を仕掛けてきているんだろう。

 ムカデから地上の生き物に常に生命力が送られ、それを元に高速移動しているようだ。


 二種類のクリーチャーが協力関係にある、それが人間の制御化で運用されている。

 つまりこれも混沌兵装の一種なのかもしれない。


 クリーチャーは生き物がオブジェクトを取り込み変質したもの。

 発現する特性をコントロールできるなら不可能な話ではない。


「ちょ、ちょっとしんどくなってきた。なんとかしてくれぇ」


「目に見えない速度が特徴ってことはそれなりに欠点もあるんだ。ベイルここは僕に任せて外周を加速しながら走って」


「わかった!」


 僕はベイルと二手に分かれアリーナの中心に向かい、生命力探知を頼りに攻撃を察知して山刀で弾いていく。

 狙い通り攻撃は僕に集中した。


 地面から僕を囲うように木柱をいくつも作り、かろうじて攻撃を凌いでいく。


 姿を隠すための高速移動に最適なのはターゲットを中心とした円運動だ。

 円形のアリーナの中心にいる僕は格好の標的。


 しかしそれを追う形で速度上限のないベイルが円運動で加速し続ければどうなるか。


 ドッバァン!!と空気の壁が弾けるような音が二回、それと同時に二箇所から甲殻類の虫の残骸が飛び散った。

 虫の速度に追いついたベイルが2体始末したらしい。

 彼は体力の限界になったようで地面を猛烈な速さで転がって壁にぶつかった。


 残り一体がこちらに飛んできた。


 真っ直ぐこちらに来るそれを一瞬だけ見ることができた。

 全身を殻で覆った人間の子供くらいのサイズの蜂だ。

 尾底部の針を出してこちらを狙っている。


 僕は目眩しも兼ねて種を一掴み投げつけ攻撃を交わす。

 虫の姿勢が変わり針が迫り出してきた今度は撃つつもりらしい。

 撃つ時の予備動作を見るため一度わざと撃たせ紙一重で交わした。


 次の一撃が来る。

 こちらを見据え、腹部を痙攣、膨張させた直後に針が来る。


 僕は蜂の腹部が痙攣したのを見ると、衝撃の大罪魔法の爆発的な瞬発力で距離を詰め、発射寸前に蜂を逆袈裟に斬り、針をムカデに向かい発射させた。


 発射された針はムカデの眉間に突き刺さり、針の先端につけておいた種を爆発的に発芽させムカデの頭を吹き飛ばした。


 頭が半分吹き飛んだ状態で悲鳴を上げながら、ムカデは僕を喰いちぎろうと向かってくる。


 僕は山刀を振り無数の衝撃波の弾丸を放つ。

 それと同時に僕自身も衝撃波で高速移動を行い接近する。

 弾丸が絶え間なく着弾する中動きを止めたムカデの頭を蹴り、袈裟斬りに首を斬り落とした。


 頭を失ったムカデが首から血を噴出しながらアリーナをのたうち周り、観客席にいた貴族や兵士たちを血で染める。


 彼らは恐怖に染まった顔で僕を見る。

 僕は山刀を彼らに向けて、威嚇のために衝撃波を放ち客席を吹き飛ばす。

 怖気付いた貴族達はその場から飛ぶように逃げ去っていった。

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