715回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 501:第三の選択
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その後衝角による穴が空いていた幽霊船はアーバン達が撃沈させ、僕らは人喰い海賊達を全員倒すことに成功した。
しかしブラッドレイに乗っていた海兵の三分の一は助けることができなかった。
ガフールさんは甲板に並べられた遺体の前で鎮痛な面持ちをしている。
「こうなる事がわかっていたのか?」
彼は僕の顔を見ずにいう。
死なせてしまった部下を見つめながら、自身に対する強い失望を抱いている様だ。
「ガフールさん達が試験運行を単独でさせられたって事は、混沌兵装以外にも理由があるんじゃないかと思って」
海兵から話を聞いたところ、ガフールさんはシラクス王家に対する忠誠心が高く海軍内でも信頼の厚い古株なのだという。
それ故にロアノークに売国しようとしている貴族に邪魔者として目をつけられていた。
「わかってはいたんだ、だが命令に従うほか私にはやりようがなかった」
恐らくガフールさんは平民、貴族に目をつけられている以上軍を辞めれば部下も彼自身もどんな手段で殺されるかわからない。
それならばいっそ命令に従い無理な任務を生き抜く方に賭ける。
無謀だとしてもそうする他なかった彼の気持ちはわかる。
「堂々と処刑するわけにはいかないからって、汚いマネしやがる」
ベイルは彼の境遇に同情しているようだ。
魔王軍元軍人として思う所があるのかもしれない。
「部下も犠牲にした、船も使い物にならない、この様では国にも……戻れんだろうな」
ガフールさんは縋る様な目で僕を見る。
「こんな事を頼める立場では無い、だがどうか私の部下を君たちの船に乗せてやってくれないか」
「貴方はどうするんです?」
「私が死ねば元老院達も追求の手を少しは緩めるはずだ、この船と運命を共にするよ」
諦めで光を失った目をして、自分の情けなさに打ちひしがられながら彼は言った。
彼にはそれが唯一自分のプライドを保つ方法なのだろうけど、あいにく僕はそういうのは好きじゃ無い。
「ベイル、ガフールさんを幽霊船に投げ飛ばして」
「は?」
「あいよぉ」
ベイルはそういうと、加速度操作も交えながらガフールさんを幽霊船に投げ飛ばす。
先に幽霊船の調査に乗り込んでいた海兵達が彼を受け止めた。
「なにをするつもりだ」
「せっかく生き延びたんだよ、海賊になって仕返ししない?」
「な、なにを馬鹿な」
「中佐、お言葉ですが悪く無い提案かと」
海兵の一人がガフールさんに言う。
「正気か貴様」
驚いた様子のガフールさんに対し、海兵の誰もがその意見に賛同している様だ。
みんな彼に生きていて欲しいらしい、少し微笑ましい気持ちになった。
「今から軍港に殴り込みに行くんだ、手伝って」
「なにっ!?いくらなんでもそれは」
流石に海兵達も動揺している。
それが可能である証拠を見せた方が良さそうだ。
僕は生命力探知で海中の巨大生物を探知、精神感応で僕らを襲う様に差し向ける。
海中から船より大きなサメが飛び出し、僕らを踊り食いにしようと飛びかかってきた。
その場にいた全員が戦慄する中、僕は山刀に衝撃の大罪魔法を乗せて、衝撃波の刃でサメを両断して見せる。
「みんなお腹空いてるよね、これを使った料理でもいい?」
僕が尋ねるとヤブイヌ達と海兵隊達は唖然とした様子で僕を見ていた。




