714回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 500:海の闇に呑まれた者達
幽霊船の一隻はブラッドレイが沈めたが、ブラッドレイの船尾が破損し舵がやられた。
コントロールが効かなくなった状態で二隻の相手は勝ち目がない。
混沌兵装も積んでないようだし、早く行かないと手遅れになりそうだ。
「急ごう」
僕がいうとアーバンはうなづき、そばに居たヤブイヌに目配せをした。
ヤブイヌはマストから伸びたロープを掴んで垂直にマストを駆け上がる。
「帆を満帆にしろ、全速力でグール船につっこむぞ!」
マストの上からそのヤブイヌが叫ぶと、船員達はロープを操り帆を開く。
追い風を受けて帆が膨らみ、船が一気に加速して船底が波を切り裂き滑るように進む。
「カシラ、荒っぽいのとお上品なのどっちがいい?」
操舵輪を握るアーバンが僕に尋ねる。
「荒っぽいので行こう」
急ぎだから手段は選んでいられない。
「そう来なくっちゃ、しっかり船に捕まってろよ」
アーバンはそう言うと舌で口の周りを軽く舐めた。
海賊船は衝角で幽霊船一隻に体当たりをしてブラッドレイから引き剥がす。
僕とベイルはブラッドレイに飛び乗り、人喰い海賊と交戦を始めた。
「おいおいほんとに二人で行っちまったぞ」
「ぼさっとするな大砲準備!」
「ええいもうやけだ、あるだけぶち込んでやる!」
海賊船の方からアーバンとヤブイヌのそんなやりとりが聞こえた。
海賊船と幽霊船の砲撃の応酬が始まる。
僕らの白兵戦も加熱していく。
海兵を襲っていた前方の敵を斬り、背後から迫る殺気に対し山刀を頭上に構え振り向きざまに叩き斬る。
海兵にとどめを刺そうとしていた右の敵を蹴り、体を回転一歩踏み込み左の敵の懐に飛び込んで胴体を横凪に斬る。
僕に狙いを切り替えた海賊達が大挙してきた。
足元の隙間めがけて飛び込んで床を転がり、足払いをしつつ逆立ち状態で飛び敵の顎を蹴り飛ばす。
そのまま空中で回転し敵の頭を蹴り走るように連続蹴りで吹き飛ばし、次に来た敵の攻撃を脇の下を抜けて交わし、背後から袈裟斬りに切断、迫ってきた三人の敵の首を回転斬りで斬り飛ばした。
海賊の首から吹き出し達が雨のように降る。
海兵達やヤブイヌ達が僕をみて青ざめた顔をした。
「ヒュー容赦ねえな」
ベイルが苦笑いで言う。
「手加減してる余裕はないからね」
人喰い海賊に精神干渉したが、彼らの心は壊れ飢餓感だけしか残っていないようだ。
邪神の影響なのかはわからないが、ここで仕留めるしか無い。
「俺たちの時はそうじゃなかったってことか」
僕に助けられた海兵は腰を抜かしながら震える声で言った。
僕はそんな彼に苦笑いで返す。
「次が来るぞ雄馬!」
「よし、行くよベイル!」
僕らは乗り込んできた人喰い海賊に向かって走った。




