711回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 497: ギブアンドテイク
その後僕は海賊船を商船と並走させ、目的の港近くまでやってきた。
捕まえたヤブイヌ達はみんな拘束し、海賊船に乗せてある。
「それじゃ僕らはここで失礼します」
「全員生捕りとはまた器用な事する用心棒さんだべな、本当に代金いらねえだか?なんか悪い気がすんだけども」
商船の乗組員が僕らに言った。
「約束通り報酬は海賊とその船で十分ですから」
「冗談かと思ってたけんど本気だったんだべな、奴隷商にでも売るのか?」
乗組員がベイルの首輪を見ていう。
「まぁいろいろ事情がありまして」
そう言う僕に乗組員の一人は怪訝そうな顔をしたが、船長がそんな彼の肩を叩いてにこやかに口を開く。
「怪我人一人出さず荷物も無事、あんたらがこの先何するのも俺らが気にすることではねえからな。海兵に海賊と間違えられて沈められねぇように気をつけてくれな」
「ありがとうございます、みなさんもお元気で」
商船と別れて僕は次の目的地に向かい港とは正反対に舵を切る。
その間にベイルがヤブイヌ達を縛っていたロープを切り、彼らを自由にした。
すぐさま反抗されるのも想定していたが、彼らはなにかにショックを受けた様子でうなだれていた。
「ずいぶんしおらしくなったなぁ、どうしたんだ?」
「なんでもねぇよ」
不貞腐れた様子でヤブイヌが言った。
「やっぱ俺たちなんかじゃ、なにもできねぇんだ」
まだ目を覚さないリーダーの様子を見ながら、ヤブイヌの一人が呟き彼らはどんよりした。
よく見るとみんな痩せこけて服もボロボロ、船も手入れがされてなくて甲板がささくれだらけだし随分くたびれている。
「ヤブイヌ族の俺たちなんて弱くて買い手もつかねぇぞ」
自嘲するように言う様子が痛々しく思えた。
「君達は弱くなんかないよ」
「二人で全員のしといて何言ってんだ」
「負けた理由を押し付けて仲違いするわけでもなく、自分達の力が足りないと素直に認められる。それは強さだよ、君たちがもっと強くなれる証拠だ」
「てめぇなんかになにがわかる!」
腹を立て僕に向かってこようとしたヤブイヌの腕をリーダーが掴んで制止する。
「アーバン、大丈夫か?」
「ああ、なんとかな」
リーダー格の名前はアーバンと言うらしい、彼は体を起こしじっと僕の目を見る。
「俺たちにそんな事言うのはあんたが初めてだ」
彼は僕の様子を探るように言う、僕の目的に気づいたのかもしれない。
「君たちの力を貸してほしいんだ」
「ざけんなよ人間!」
話に割って入り食ってかかろうとする仲間を制止しアーバンは会話を続ける。
「なにをするつもりなんだ」
「海軍基地を襲撃するために海賊になりたくてね」
「はぁ!?」
「僕の仲間が無実の罪で処刑されかかってる、それに僕らを逃がしてくれた海賊達も助け出したいんだ」
「頭おかしいんじゃねぇのかこいつ」
口々に悪態をつき動揺するヤブイヌ達の中アーバンは真面目に僕の言葉を聞いて考えていた。
「勝算はあるのか?とてもじゃないが俺たちやこのオンボロ船程度で太刀打ちできる相手じゃないぞ」
「できるよ、僕とベイル、それに君達が手伝ってくれるなら」
「根拠は」
「雄馬は魔王候補者だ、大罪魔法も二つ使える」
「人間が魔王候補?ばか抜かせ」
「いや噂は前に聞いたことがある、紅玉の腕輪と琥珀のダガーを持った男。それに並じゃない強さ、本当かもしれない」
「で、でもよ。本当だとしても自殺行為じゃねえか?あまりにも無茶だぜこんな話」
「でもやり遂げたら君たちの名前は売れるよ。みんなが君たちの実力を認めてくれる。それに名声に足りる実力も僕がつける、悪くない取引じゃない?」
「ギブアンドテイクって事か。俺たちの生き死にを握ってるアンタから取引を持ちかけられるとは」
アーバンはベイルと僕を順に見た後小さく笑う。
「いいぜ、乗ってやるよその話」
「正気かよ、あいつら頭おかしいぜ付き合わされたらこっちまで破滅しちまう」
「チャンスにはリスクが付き物だ。どうせ断っても得するわけでもない、ならやってみようぜ」
ヤブイヌ達は戸惑いながらも「お前がそこまで言うならわかったよ」と答えた。
「交渉成立だね」
「ああ、今からアンタが俺たちのカシラだ。だがこのまま軍港に殴り込むわけじゃねえよな?」
「たしかにもっと仲間がいた方がいいんじゃないか?」
ベイルも少し心配そうに言った。
「あてはあるよ、僕の勘が正しければ今夜にも動きがあるはず」
「今夜って事は」
「今から向かわないと間に合わないね、お願いしてもいいかな」
「人使いの荒いカシラだぜ、みんな疲れてるだろうが一仕事やるぞ」
アーバンがそう言って音頭を取るとヤブイヌたちはテキパキと船の運行のために動き出した。
「次はどんな奴を仲間にするんだ?」
ベイルが僕に問いかける。
「ガフールさん達だよ」
「ほえ!?海軍人だろあいつら」
「まぁ見てて、きっと協力してくれるから」
そう言う僕をベイルは不思議そうな顔で見ていた。




