709回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 496: 飛剣爪牙
ベイルの言った通り海賊船がやってきて威嚇発砲をしながら商船に横付けした。
僕らは風下に隠れながら様子を伺う。
海賊船の甲板にいたのはヤブイヌのような見た目をしたモンスター達だった。
服も船も随分ボロボロだ。
ヤブイヌ達が商船に乗りこむのを見計らい、ベイルは裏手から海賊船に入り、僕は側の窓を蹴破りロビーに飛び込んで海賊達を迎え撃つ。
「残念だけどこの船で好き勝手はさせないよ」
「用心棒か、ひょろっちぃガキ一人で何ができる!」
飛びかかってきた三人のヤブイヌに対し、僕は一歩踏み込み左の一人を蹴り飛ばし、迫った斬撃を交わしつつ右の一人の首に裏回し蹴りを入れ、正面から武器を振りかぶったヤブイヌの懐に潜り込み胸に肘を入れ吹き飛ばした。
四人が今の戦闘の間に脇を抜けて奥に向かった、この場に残っているのはあと五人。
連携の取れてる相手だ、おそらく人質を取り戦況を有利に運ぶつもりだろう。
僕は生命力探知で船内の状況を探る。
狭い船内の通路を一列になり進んでいく海賊。
それに対して船員さんが打ち合わせ通り通路の途中の部屋から飛び出し、挟み撃ちで海賊を撃破していくのがわかった。
狭い船内の通路で迎え撃てば武装した海賊相手でも戦える。
相手と違いこの船の構造を把握し尽くした船員なら尚更だ。
「随分余裕な顔してやがるな」
僕の様子を見て状況を察知したらしい、ヤブイヌ達は鉄の刃のついたブーメランを手にすると、ジリジリと陣形を変え僕を取り囲んだ。
ただのチンピラの集団というわけではなさそうだ。
「今日出会ったのが君たちでよかったよ」
「そうかい、すぐに後悔することになるぜ」
ヤブイヌは一斉に鉄の刃のついたブーメランを僕に投げた。
ブーメランを交わしている間にナイフを手にしたヤブイヌが突進してくる。
それをいなしているとさらに別のブーメランが襲ってくる。
息のあった連携攻撃。
ブーメランが僕の肌に擦り傷をつけた。
「油断してると大怪我しそうだ」
「大怪我で死んでみろよ人間!」
恐らくリーダー格らしい一人が僕の首目掛けて斬りかかってきた、かわすが二撃三撃と続く。
そんなさなかでもブーメランが飛び交い、的確に僕だけを攻撃してくる。
「こんな状況でよく同士討ちにならないね」
「舐めるな!」
「褒めてるんだよ」
リーダー格の動きが変わった、勝負をつけるつもりらしい、ブーメランの一糸乱れぬ連携も加速する。
ブーメランの質量とこの速度では弾くのは難しいだろう。
僕は山刀を振りブーメランの軌道を逸らしていく。
リーダー格の攻撃を交わしながら三度刃を振るうと、ブーメランが全て空中衝突してあらぬ方向に飛んで行った。
リーダー格が雄叫びを上げ相打ち覚悟の決死の一撃を放ってきた。
僕は山刀を後ろに下げ、リーダー角の顎を蹴り上げ鳩尾に拳を入れ失神させた。
その様子を呆然と見ていたヤブイヌ達を木の蔓で縛り上げる。
「これでこちらはいっちょ上がりと、そっちはどう?」
幻影水晶を使いベイルにテレパシーで尋ねると、こっちもちょうど今終わったとこだと返事があった。




