708回目 パラダイムシフト
AIを子供の代わりに育てる独身が多い時代
育てたAIは試験を受けてデータ上ではあるが人権を与えられ、就職もするし、本人が望むなら育ての親を養ったり介護することもできる
肉体のある人間が存在する必要性が薄れ、人間の数は減り、亜人とも呼ばれるAIが今や人類の代表とも言える過半数になっていた
男女の結びつきが意味をなくした時代においても、男は女性との関係を求めていた
ガイノイドはそうした需要に応える一大産業となっていた
特に人気があるのが人間味のあるコンパニオンドールだ
それは実は人間をデータ化してドールに取り込んでいる
脳が人格を左右するのと同じで、ハードウェアに自身を人間と認識しない環境を用意すれば、実態を持たずに育ったAIには出せない人間臭さのあるマシンの出来上がりだ
もちろん違法ではあるが、男が殺されても警察すら動かなくなったその時代では脱法的な商売として成り立っている
つまりコンパニオンドールの見た目は女性、中身は男
噂によれば民間には降りてこない高級品に関してはその限りではないらしいが、そんな事は一塊の運び屋であるガイには関係のないことだった
ガイはコンパニオンドールを製造元から客の元に、法律の眼を掻い潜って届ける運び屋だ
彼は自らが育てているAIソーマに仕事の手伝いをさせていた
ソーマは元々ガイの仕事仲間のハッカーの息子だった
育ての親を失い、ハッキング能力の高いソーマを狙う連中から守るために身元引受人になったがソーマはガイの事を毛嫌いしている
彼の父親はまともな家庭というのに憧れがあったらしく、自分の後ろめたい仕事について一才ソーマには知らせていなかった
世間知らずで温室育ちのおぼっちゃまのソーマにはガイがとんでもないクズに見えているのだ
その時代に即した普通で育てればガイはむしろ良識のある方なのだが、そうした認識についての齟齬は埋めるのが面倒なため、ガイはソーマに罵られながら仕事を手伝わせ、彼の父に引き継いでソーマに生きる術を学ばせていた
ゾンビのように歩く疲れた肉人形のような人間と、煌びやかなモニターの中を生きるAI達の姿を眺めながら
ガイは変わりゆく都市の中輸送車を走らせるのだった




