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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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706回目 パラドックスヴィジョン

 最悪な夢を見た。

 時計の針は朝の七時、どうやら今日は家にいるわけにはいかないらしい。


 しばらくぶりにブレザーに袖を通し、階段を降りて埃の積もった廊下を抜け、靴を履いて玄関のドアに手をかける。


 ふとシューズクロークに置かれた家族写真に目が止まる。

 父さんと母さんと俺が幸せそうに笑ってる過去の断片。


「行って来ます」

 俺はそういうとドアを開け外に出た。


 眩しい……。

 家のカーテンはいつも閉め切っているから、久しぶりに見る陽の光がやけに目に染みる。


「学校……どう行くんだっけ」

 すでにうろ覚えになっている通学路をなんとか思い出しながら歩いていく。


 同じブレザーを着た生徒をちらほらと見かけてほっとした。

 道順は間違ってないらしい、彼らについていけば学校へは辿り着けるだろう。


「あっ!マサキ君じゃない!!」

 幼なじみの花鈴が話しかけて来た。

 彼女は俺に対して義務感のようなものがあるらしく、なにかと世話を焼いてくれている。


「おはよう」


「おはよう!あのさ、もう大丈夫なの?」


「なにが」


「なにがって、ずっと家出てなかったんでしょ」


「うーん」

 説明が面倒だ、どうせ振り切らなきゃいけないし。


「俺に関わるのやめたほうがいいよ」

 俺はそういうと歩く速度を早める。


「ちょっなにそれ!」

 追いかけようとする彼女の前を車が塞ぐ。

 その間に俺は角の裏路地に入った。


「待ってよマサキ君!」


 彼女の必死な声に少し胸が痛んだが、俺は歩速を早めて暗い裏路地を奥に向かって進んでいく。


 突き当たりに着いた。

 もう彼女は追って来てはいない、とりあえず一つ目の最悪は退けた。

 

「問題は次か」

 呟きながら振り返ると、夢で見た通り怪しい風体の男達に囲まれていた。

 

「はぁーいご足労ありがとうさま」


 サングラスをかけたチャラチャラした雰囲気の赤いスーツ姿の男が、スティックのついた飴を舐めながら戯けて声をかけて来た。

 真面目そうな黒服男達の中で一際浮いて見える。


「その目、誘い込んだって感じだねぇ。でも囲い込まれて逃げ場無し、どうして来たのかな?」


「都合がいいんだここなら」

 あと三秒したらボルトが落ちる、それと同時に真っ直ぐに。


「人が死んでも気づかれない」

 俺の言葉と同時にボルトが落ちて来た、男達の注意がボルトに向き俺は全力で走る。

 よそ見をしていた男を体当たりで突き飛ばして突破、全力で走り抜ける。


 後方に鉄筋の山が降り注ぐ音がする。

 俺は振り返らず走る、見なくてもどうなるかはわかってる。

 今はただ振り切るために走るだけだ。


-----


「ヒュー、やるじゃない」

 鉄筋に道を塞がれ、走り去っていくマサキを見つめてチャラ男は笑う。


「バタフライエフェクト、未来改変による辻褄合わせ。デメリットでしかない副作用を逆手に利用するやつは初めてだなぁ」


 チャラ男はサングラスをずらし地面に落ちたボルトを見る、その眼光は冷たい。


「まさかバタフライエフェクトの結果まで見えてるわけじゃないよね?まさかまさかぁなんだか興奮して来たよ」


「狙撃班に連絡を」


「は?なにやってんの」


「今ならまだターゲットを始末できる」


 チャラ男はスマホを取り出した男の手を蹴り、スマホを壊した。


「貴様何をする!」


「うっせぇなぁ」

 チャラ男は手慣れた手つきでバタフライナイフを出すと、指示役の男の首頸動脈を切る。


「ウゼーよあんた、余計な真似すんなって」


 噴き出す血がチャラ男の服にも付くが、その痕跡は目立たない。


「やっぱ着るなら赤だよなーぁ」

 彼はそう言ってニヤリと笑いナイフを投げ捨てた。


「お前こんなことをしてタダで済むと思うのか」


「俺はこれからすることの結果が見える、こいつを殺した事でデメリットはないんだ。あんたを殺した結果も見てやろうか?」


「チッ……」

 舌打ちをしながら黒服は怯えた様子でチャラ男から距離を取る。


「……と、まさか俺の行動まで予知してたなんてことないよな?八神マサキ」

 そう言うとチャラ男はマサキが走り去った方向をニヤニヤ笑いで見つめて言った。


-----


 学校にたどり着いたマサキは花鈴に睨み付けられながら遅刻で自分の席に座った。


 近頃予知能力者が現れるようになり、社会が混乱し始めていた。

 社会が変動する時期には様々な噂が飛び交うもので、ネットやマスコミではさまざまな噂が流れている。


 その中ではローカルな、この学校近辺で流れている噂がある。

 妙な組織が予知能力者を狙ってるという話。

 実際自分も狙われたし、それは本当なんだろう。


 周りには知られないようにしていたのにどうして知られてしまったのか。

 これから先も狙われ続けるのか。

 不安がないと言えば嘘になる。


 教師に見えないようにスマホを取り出し、ネットで情報を検索する。


 学校の噂に近似の話をいくつかまとめてみる。


 大規模なバタフライエフェクトを起こしてる改変型予知能力者を狙ってる国のエージェントだとか。

 だから殺されても事故死扱いされてるとか。


「随分物騒な話だ」

 気が滅入るだけだった。


 予知能力者といっても発現する能力は千差万別。

 大抵の能力者が的中率30%ほどの曖昧な予知。


 それから予知を見ることでその事象を確定させるとか、TVやスマホのカメラから見ると未来の景色が見えるとか。


 もちろん的中率が高い予知能力者ほど重要視され、国や組織などがそうした能力者を確保して、自分の組織に有利な新しい社会形式を普及させようとしてるなんて話もある。


 最近問題視されているのが、予知能力者によって起こされる自然災害。

 改変型予知能力者は見たヴィジョンに対して違う行動を起こすことが可能だが、それによる未来改変の影響が大きいほど大きな歪みが発生し、自然災害や事故という形で表出してしまう。

 政府はそれをバタフライエフェクトと呼び、予知能力者に対して自粛を求めている。


 最悪なケースで言われているのは、死ぬはずだった人を救った事で、地盤沈下が起きて街が丸ごと消失した事件。

 犯人は不明、政府が秘密裏に予知能力者を殺して回っててもおかしくはない状況というわけだ。


 俺は昨晩見た夢で、無理やり花鈴に学校に連れて行かれ、彼女と一緒に黒服に追われて誘拐されるというヴィジョンを見た。


 その後に何度かリプレイをし、改変した場合のバタフライエフェクトがどう起きるかを観察しておいたので、今朝のように逃げることができたというわけだ。


 バタフライエフェクトの結果まで見られる能力者の話は聞いたことはないが、結果を見て行動できることを知って俺を見逃してくれたりしないかなぁと切に願った。

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