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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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702回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 492:希望の光

 今の爆発で部屋を埋め尽くしていた水は全て消滅、熱波で服は乾き日焼けのように軽く皮膚が焼かれた感覚がある。

 咄嗟のことで十分な出力が出せなかったとはいえ、大罪魔法で防いでこの威力は寒気がする。


 周囲を見ると仲間はみんな大きな怪我もなく無事だった。

 しかしさすがに建物の一角が消し飛ぶ爆発で海兵達が集まってきた。


「あー面倒なことになっちゃった」


「お前こうなるのわかっててやっただろ!」

 ベイルが歯を剥き出しにして怒る。

 男の子はそんなベイルや困っている僕らを見て愉快そうな顔をした。


「テンパってやんのウケるぅ、それじゃ僕様はかーえろっ」


 そう彼は言って服をパンパンと叩いて埃を落とすと、はたと何かを思い出した様子で僕を見た。


「連れて帰れなかった時は言伝を頼まれてたんだった。うちのリーダーからの言伝『あの夜の続きをしよう』だってさ」


 その言葉を聞いて僕の脳裏に炎の中に消えたある男の笑みがよぎった。


「ファン・ソウハ……」

 僕は無意識のうちにそう呟いていた。


 男の子は何かしらのスキルを使い、水に代わって消滅した。

 おそらくアクアトランスファー、水属性の転移スキルだ。


「雄馬、どんどん敵が来るぞ」

 ベイルが冷や汗を流しながら言う。


 マックスとリガーが立ち上がり武器を構える。


「ここで捕まるわけにはいかない、みんな馬屋に急ごう」


 こうなったら強行突破しかない、僕らは一斉に走り出した。


 海兵をいくら倒しても次から次へとやって来てきりがない。

 殺さないように戦っているため消耗も激しく、さっきの戦闘での傷や疲れも重なり僕らの進行速度は遅れ、海兵に包囲されてしまった。


「もう殺さないなんて言ってられなくないかにゃ」


「彼らだって悪人ってわけじゃないんだ」


「綺麗事言ってらんねぇだろ、雄馬が危なくなったら俺はやるぜ」

 ベイルはそう言って僕の前に出る。


 じりじりと海兵達に距離を詰められる中、包囲の外から騒ぎが聞こえてきた。


「収監していたモンスター達が暴れ出したぞ!」

 海兵の叫ぶ声がする。

 

 僕らを囲んでいた海兵達にも動揺が走り、包囲に隙ができた。


「どっせい!!」

 マックスが包囲の手薄な部分に盾を構えて突進し海兵を薙ぎ倒す。


 その穴を使い僕らは包囲の外に出て、リガーが死刃で道を殺し包囲していた海兵達が僕らを見失った。


 包囲の外ではたしかに囚人のモンスター達が海兵達と戦っていた。

 この規模はおそらく収容所にいたモンスター達全てが決起している。


「いったいどうしたってんだこりゃあ」


 海軍基地だけあって海兵も多く、僕たちに向かって次の一団がやってくる。

 それを阻止するかのように囚人達がなだれ込んで乱戦した。


「ぼさっとしてんじゃねえぞ大将!」

 そう言いながら囚人の一団が僕らのそばにやってきて守りを固める。


「みんな、どうして?」


「オーガスティン諸島で暮らしてる獣人達はみんな元々人間と仲良くしてたのが多くてね」

 押し寄せてくる海兵と戦いながら囚人が言う。


「今は海賊なんてやっていても本当は昔みたいな生活に憧れてるのもいるんだ」

 見事な連携プレイで彼らは僕たちを一方向に誘導する。


「人間でありながらモンスターに親身になる底抜けのお人よし。魔王候補者山桐雄馬、あんたは俺達の希望なんだ」


「俺達が誰からも憎まれず生きていける世界を、あんたなら作ってくれるかもしれない」


 そう言いながら戦う囚人達は傷つき次々に倒れていく。


「みんなダメだ、こんな事をしたらなにをされるか」


「俺たちはあんたを外に出せればそれでいい」


「あんたは俺たちの家族や仲間を救ってくれる、そのためなら命だっておしかねぇや」


 彼らは今自分の命を使い僕を逃すためのリレーを回しているのだ。

 彼らに託された願いの重圧が重くなる程、僕は胸が痛くて苦しくなった。


「そんな、僕は、僕には」


「言うな雄馬、みんなわかってんだよそんな事は」

 ベイルは僕の言葉を塞ぐように口にした。


 ベイルの言葉に囚人の獣人達はニヤリと笑う。

 僕を逃す為に自分の命すら投げ出そうとしているのに。


「このまま真っ直ぐ走って倉庫に行け!そこに俺たちのとっておきがある」


 囚人の最後の一人がそう言うと、追っ手を引きつけるために歩みを止めた。


「俺達じゃここまでが限界だギョ」


「はぁはぁ……魚人は走るの苦手だギョ」


「雄馬さんはどうか逃げ延びてほしいギョ」

 ダルゼムさん達もその場に残り足止めを始めた。


 左右からさらに敵の増援が迫る。


「これは覚悟の決めどきですよリガー殿」


「おいらこんなのガラじゃないんだけどにゃー、まぁ雄馬には借りもあるし仕方ないかにゃ」


 そう言うとマックスとリガーが左右の敵を引きつけ、僕とベイルは倉庫に飛び込んだ。

 つっかえ棒で扉を押さえると、僕らは埃まみれの荷物の中、布に隠されたグライダーのような物を見つけた。

 左腕が疼く、おそらく混沌兵装の試作品なんだろう、二人までならなんとか使えそうだ。


「本当にこんなので逃げられるのか?」

 ベイルが不安そうに言う。


 外から火をつけられ、倉庫が燃え始める。


「処刑するからって焼き殺すのも構わねえってのかよ」


「いちかばちかだ、行こうベイル!」


 火が燃え広がり天井まで届いた、このままじゃすぐに焼け死んでしまう。


 僕はベイルとグライダーのコントロールバーを握ると、倉庫の壁に向かい走り、山刀を振り衝撃の大罪魔法で壁を吹き飛ばしてグライダーの推進用オブジェクトをフル稼働させる。


 燃え盛り崩壊していく倉庫を飛び出し、僕らのグライダーは加速しながら宙に飛翔した。


 その様子を見た囚人たちが歓声をあげる。


 下を見るとマックスやリガーやダルゼムさん達、それに囚人達が捕まって連れていかれるのが見えた。

 それでもみんな僕らを笑顔で見送っていた。


「みんな!必ず助ける!!助けに来るから、どうか待ってて!!」


 今の僕にはみんなの為に何もできる事がない。

 自分の無力さが悔しかった。

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