701回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 491:ジェノサイドクラススキル
僕とベイルは進行方向を交差させ攻撃を交わして物陰に入る。
不幸中の幸いゴミ捨て場のため障害物には事欠かない。
敵に居場所を悟られないように近づく。
「かくれんぼは嫌いなんだけどなぁ」
そう言いながら男の子は水流攻撃で当てずっぽうに障害物を破壊していく。
攻撃が妙に規則的なのが引っかかる。
強い攻撃というわけじゃないからリキャストなしに連射できるはずだ。
僕はベイルに念話を飛ばす。
『何か仕掛けてくるかもしれない、気をつけて』
『気をつけるって何にだ?』
『発生した水を変化させて攻撃してくるかも』
攻撃を注視すると水の中から水弾がマシンガンのように連射された。
「どわあ!?」
水弾も当てずっぽうに撃っているらしく交わす事はできたが、威力は絶大で木箱が容易く粉砕され石の柱に傷がついている。
本物の銃弾くらいの威力はありそうだ。
「あははっ驚いた?ねぇ驚いたでしょ?でもまだまだ」
男の子がそういうと、水溜りからスライムのように水滴が持ち上がり、水球となって浮き上がって螺旋を描く水の槍になり襲ってきた。
今度はこちらを確実に狙ってくる、自動追尾型の攻撃らしい。
僕は琥珀のダガーを使い植物操作で対応できるが、ベイルが心配だ。
「くそっ!こいつ!!」
ベイルはなんとか絶技を瞬間的に使う事で許容量オーバーしないように立ち回っている。
しかし彼に対する攻撃の手が多い。
彼を追う水球は見えるだけで三つ、水流攻撃でさらに増えていく。
水弾の弾幕、追尾する水槍、その上床にできた水溜りをスキルで変質させたらしくベイルは足を滑らせた。
倒れる先を狙った高圧水流がベイルを襲う。
ベイルは自分が倒れる速度を遅くし、高圧水流を跳んでかわすと、空中で身をひるがえし追跡していた水球を全て爪で叩き潰した。
「ちょこまかと鬱陶しいンだよなぁ!」
イラついた男の子の注意がベイルに集中し、僕はその隙をついて彼の座っている瓦礫を植物で崩した。
「はぇ?」
男の子は体が宙に投げ出され呆気に取られていた。
僕は崩れる瓦礫を駆け上り、男の子の背後に回り、彼の延髄めがけて山刀を突く。
後頭部からの斬撃が入れば致命判定が入りHPを一気に削れる。
HPを削りきればプレイヤーのアバター化が解けて無力化できるはずだ。
しかし僕の攻撃は交わされた。
スキルを使い死角を水鏡で映していたらしい。
男の子は僕への攻撃に転じようとした。
「この間合いなら僕の方が」
速い。
僕は瓦礫を蹴って踏み込み、男の子の鳩尾に裡門頂肘を入れて吹き飛ばす。
「ばぁか」
男の子は空中でニヤリと笑い僕に向かい水弾を連射する。
僕は自分の足元の木箱から木の槍を生やし組み合わせて水弾を防いだ。
水滴を使った攻撃が主なら植物で吸い上げればいい、多少威力が高くても植物の中に水を拡散させ防ぎ切ることができた。
「よっと」
男の子はバク宙をして着地、自身のHP残量を見て驚く。
「うっそぉ、素手でHP半分持って行かれた?」
「死なないとわかってれば手加減なしで殺撃が放てるからね」
「へえ、殺人拳の使い手かぁ。うちのリーダーと一緒だ」
その言葉に僕は戸惑った。
プレイヤーで殺人拳の使い手、一人心当たりがある。
「油断してんじゃねぇよ」
怒ったような笑うような声で彼はそう言って、僕を水の柱で打ち上げ天井に叩きつけた。
「ぐはっ!」
胸を強く撃って身動きが取れなくなった。
「一発入れたくらいで勝った気になってんの?バカにしてる?ねぇ」
思ったより手こずっている事に腹を立てているのか、男の子の様子が変わった。
落下中に僕の周囲を無数の水球が取り囲み、水球から放たれた水弾でめったうちにされた。
一発一発が拳で殴る程度の威力なのは彼がこちらを痛ぶるためだろうか。
僕は地面に叩きつけられ痛む体をこらえて構えを取る。
「スキル自由に使えないってほんとなんだ。舐めプされてるみたいで気分悪いよ、マジでさぁ」
水球が一斉に槍になって僕に襲いかかる。
「雄馬!」
ベイルが割って入り爪を使い槍を防ぐ、しかし槍に切り裂かれた彼の腕と足から鮮血が吹き出す。
ベイルが危ない!
僕は木柱で自分を吹き飛ばし水槍のターゲットを自分に集中させる。
複数の水槍が一斉に飛来する。
体を回転させて攻撃を避け、男の子に種を投げつけ槍にして飛ばした。
それをベイルが加速させ木槍は火槍となり男の子に直撃、衝突時に凝縮された熱エネルギーが眩い閃光となり爆発を起こした。
「硬いなぁ」
僕は着地しベイルと肩を並べながらつぶやく。
男の子は無傷、胸の女神像の光輪も消えてない。
空中に水の塊がいくつも現れ増大しはじめた。
「なんだこりゃあ!?」
ベイルが戸惑う。
出口は瓦礫で塞がれている。
僕は紅玉の腕輪を使い僕らの心肺機能を一時的に強化する。
ゴミ捨て場が水で満たされ、僕とベイルの体が浮いた。
身動きが自由に取れない中、何匹も鮫が現れ襲ってくる。
男の子は鮫に翻弄される僕らを冷たく見つめると口を開く。
「やる気ないなら死んじゃいなよ」
この水の中で彼だけは影響を受けず話ができるらしい。
男の子が気だるげに手のひらを見つめると手のひらに眩い光が現れ泡を出し始めた。
恐らくジェノサイドクラススキルだ、はやく止めないと僕らは跡形もなく消されてしまう。
水の中では植物の成長速度が遅い、男の子に攻撃することはおろか、鮫から身を守る事もできない。
紅玉の腕輪で周囲の水の粘性を変化させて鮫に攻撃するが、地面に足がついていない状態では決定打が与えられない。
多勢に無勢、鮫に連携攻撃され僕の腹部に鮫が牙を突き立てた。
その瞬間鮫の目に木の槍が突き刺さる。
琥珀のダガーは使ってない、一体どうして?
僕とベイルの前に木の槍を手にしたダルゼムさんが飛び込んできた。
「どんなもんだギョ!」
「鮫の相手なんて日常茶飯事だギョッ!」
そう言ってアドニスが立て続けに鮫を屠る。
「一気に行くギョ!俺の後に続くギョーッ!」
デイモスはそう言って僕らの前に出ると、鮫を蹴散らし包囲網を破る。
ベイルが加速度操作で僕を前に押し出す。
僕は山刀を構え、男の子を射程に捉えた。
男の子は僕に向けて手を握りしめニヤリと笑う。
「メイルシュトローム」
間に合わなかった、スキルにより凝縮されプラズマ化した水が大爆発を起こす。
このままじゃこの収容所ごと全てが消し飛んでしまう!
僕はやむなく衝撃の大罪魔法をその爆発に衝突させ威力を相殺にかかる。
しかし殺しきれなかった爆発が僕らと建物の一角を吹き飛ばした。




