700回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 490:水刃乱れ散る
「ここにいれば来るって話だったけどほんとに来たね、まったく待ちくたびれたよ。でも人数が多いなぁ、連れてくるように言われたのは一人だし……」
男の子の首にかかった水瓶を持つ女神のペンダントに光輪が浮かんだ。
「みんな下がって、プレイヤーだ」
「邪魔なのは殺しちゃおっ」
男の子が踵で木箱を叩くと、彼を中心に大量の液体が飛び散った。
飛沫が木箱などに当たるが変化はない、どうやら酸や毒ではなくただの水らしい。
「シャワーのプレゼントか、ありがたく浴びてやるよ」
ベイル言うが男の子はそんな彼にニヤリと笑う。
「かーらーのー、アクアスラッシュ!」
男の子がそう言って片手をかざすと、空中の水が無数の薄い水の刃になりベイルを斬り刻む。
水の刃は木箱や陶器を豆腐のように切断し、煉瓦の壁に傷をつけた。
「ベイル!」
ベイルは防御を解除し、びしょ濡れの体を震わせて飛沫を飛ばし「死ぬかと思った!」と叫ぶ。
絶技で速度を弱めたらしい、僕はほっと息をついた。
しかし細かな切り傷が彼の全身に刻まれ、彼の毛皮に血が滲んでいた。
「わぉ、ユニーク個体じゃん。いいなーそんなのペットにしてるなんて」
「ベイルはペットなんかじゃないよ」
反論した僕とは裏腹にベイルは尻尾をパタパタ振っている。
「ベイル?」
彼の顔を見るとなんとも言えないような嬉しそうな顔をしていた。
「つがいもいいけど、雄馬に飼われるならペットもいいな」
ベイルは僕に提案するようにあからめた顔でうっとりと言った。
「か、考えとくね……」
ガガガッと金属音がけたたましく響きそちらを見ると、弾丸のように襲いかかる水滴を盾で防ぐマックスの姿が見えた。
「あーもう硬いなぁ、面倒だから嫌なんだよなこういう相手」
男の子は不満げな顔で言うと、手のひらを上に向け人差し指で天井を指した。
マックスに向かっていた水の弾丸が一斉にホップし、マックスを飛び越え彼の後ろに回ると水蒸気爆発を起こしてマックスを吹き飛ばした。
さりげなく男の子の背後に近付いていたリガーも、その体についた水滴が弾丸になり彼を撃ち抜き吹き飛ばす。
「思ったより手強そうだぞこいつ」
「騒ぎが大きくなる前に片付けなきゃ、息を合わせよう」
「おうッ!」
僕とベイルは呼吸を合わせて男の子に向かい走り出した。




