696回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 486:古の言葉
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僕らが連行された軍港は軍艦や兵器で溢れ、兵士達が物々しい雰囲気で警備する場所だった。
武器を持った兵士に監視されながらなのもあるかもしれないが、張り詰めた空気で息苦しさがある。
戦うための機能を重視した、色んな意味でポートロイヤルやスマウスとは違う場所だ。
留置所と思わしき場所は大きな建物で、留置所というより刑務所に近い雰囲気がある。
中に入り身体検査をされ、武器は奪われたがオブジェクトはアクセサリーだと思われ見過ごされた。
「意外とチェックが甘いんだな」
牢屋に連れて行かれる途中、ベイルが僕に小声で耳打ちした。
「うん、そうだね……」
全くの手ぶらにされるよりは助かるけど、なにか少し違和感がある。
道中鮨詰め状態で牢屋に押し込まれた獣人達の姿があった。
その中の数人が僕の姿を見るや目を見開き、駆け寄って縋るような顔で手を伸ばしてきた。
なんだかいたたまれない気分になり、その手に触れる。
心の中に何かが入ってくる感覚、咄嗟に幻影水晶の力で弾き出す。
それと同時に看守の鞭に手を叩かれ、僕は獣人から手を離した。
「余計な真似はするな!」
看守が叫ぶ中眼前の犬獣人を見ると、彼は僕に触れた手を大切に抱きしめながら、じっと僕を見つめ返していた。
「何かあったのか?」
「心の中を見られたみたい、絶技かな?」
「迂闊なことはしない方がいいにゃ」
リガーがそう言った後、犬獣人が口を開いた。
「ウィーディッシュオー……」
小さなその言葉にベイルがぴくりと反応した。
「ベイル?」
犬獣人の言葉が波紋を起こすように、獣人達が同じ言葉を囁きながら僕らを見る。
そしてその言葉は叫び声になり獣人達は足を踏み鳴らし始める。
「「ウィーディッシュオーッ!ヴォーガン!!ヴォーガン!!」」
獣人達は息を合わせて叫ぶ、まるで何かを鼓舞するかのようだ。
ベイルはその状況に毛皮を逆だて目を丸くした。
「気づかないふりをして早く行こう」
ベイルは僕に囁きかけると歩を進めた。
状況が飲み込めないまま僕はベイルに続いて先を急ぐ。
獣人達は僕らの姿が見えなくなるまで叫び続けていた。
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僕らは四人部屋の牢屋に入れられ、ダルゼムさん達は隣の部屋に収監された。
僕たちはとりあえず椅子やベッドに座り一息つく。
「牢屋にしちゃ悪くないベッドにゃ」
リガーが早速横になってダラダラする。
泥棒の仕事柄牢屋慣れしてるようだ。
「集団部屋よりは落ち着けそうだなぁ」
ベイルはそう言うと自分の手を舐めモヒカンの手入れをし、毛皮を舐めて毛繕いし始めた。
「暫しの勾留というには随分奥に連れてこられましたね」
マックスは警戒しながら周囲の様子を見ている。
「さっきのあれはなんだったんだろう」
僕がポツリというとベイルが毛繕いをやめた。
「あれはモンスターが昔使ってたっていう古い言葉だよにゃ。意味はわからんけどもにゃ」
リガーは僕に頭を撫でられゴロゴロ言いながら言った。
「意味は魔王に挑みし勇気ある者、魔王候補者を讃える言葉だ」
ベイルは真面目な顔をして言った。
「勇気ある者……」
「人間で言うところの勇者ってことかにゃ」
リガーはお腹を出して僕に擦り寄りながら言う。
昔誰かにいつかそう呼ばれる時が来ると言われた気がする。
思い出そうとすると左腕が刺すように痛んだ。




