695回目 異世界は男に厳しすぎる
女系社会が進み人間が女神しか崇めず男神を邪険に扱うようになった世界「ファーレンハイト」
男神達は人々から十分な信仰を得られない世界を捨てることにして異世界から一人の青年を転移させる事にした。
そんな理由で転移させられた青葉源一。
男神達は世界への加護の力や、神としての権能をはじめに全て渡し、あとはよろしくと消えてしまう。
突然の事に理解が追いつかず、見慣れない世界でぽかんと途方に暮れる源一だったが。
そんな彼にお構いなしに男神の加護がなくなった事による世界の崩壊が始まっていた。
女神の加護は主に女性に強く働くため男は役立たずとして非差別民族扱いされ僻地で苦しい生活を余儀なくされていたが、男達はその事を知らされずに現代主神とされる女神に祈りを捧げ続けていた。
源一はそんな男村を守る気高い女戦士カミラと出会う。
カミラは戦いの男神を崇拝していた戦士団の生き残り。
彼女に対する女神の加護は弱く、加護持ちの女戦士達に雑魚扱いされ、男を守って自己満足する程度しか出来ない価値のない奴と馬鹿にされていた。
「どれだけ鍛えても昔のようにはいかない、それでもやるしか無いんだ、あの村を守れるのは私だけなんだから」
そういうカミラに源一は力になりたいと思った。
その気持ちに応えるかのように源一は自分の中の戦いの男神の加護の力が強く反応しているのを感じた。
村にドラゴンが襲撃し、一人でも村人を逃がそうと犠牲になるつもりで果敢に飛び出すカミラ。
源一は戦いの男神の加護の全てを彼女に注ぎ込む。
するとカミラは化け物のように強くなり、ジャンプで空を飛び竜を一刀で真っ二つにしてしまう。
岩すら軽くついただけで壊してしまい日常生活に支障をきたしそうな程だったため、源一は一時的に加護をキャンセルする。
その後モンスターに襲われていた女の子エレノアと出会い、彼女を助ける。
実は彼女は癒しの女神のだった。
慈悲深い彼女は男にも加護を与えている為、他の女神から呪いをかけられ人の姿で地上にいなければならなくなっていた。
呪いを解くため、そして男神の喪失による世界を崩壊を止めるためエレノアは一人旅をしているという。
彼女が言うには世界を満たす加護の力が薄れ、歪みが生じてそこから世界が綻び始めているのだという。
そしてその歪みは女神の加護の薄い、男達の集落の近くに生じやすく、この近辺にそれがあるのだと言う。
それを聞いた源一とカミラはエレノアの手伝いをする事に。
源一は権能を使い瘴気を払って歪みの中心である化け物を見つける。
カミラの力とエレノアの癒しの力を使って戦い歪みのコアをむき出しにし、源一は権能の槍を使って化け物を浄化する。
化け物の正体は歪みによって邪神に転化していた豊穣の女神グレイスだった。
グレイスは世界の歪みの原因は女神達の加護の一点集中にあるという。
世界を満遍なく守れば歪みは生じないが、男の多い農村地区に対する加護を手薄にする事で歪みが生じてしまった。
グレイスはこの地方の景色や風土が好きで残っていたが、一人だけでは歪みを抑えきれなかった。
源一はグレイスに反応している男神の権能を森の狼に託して神獣にし、グレイスと一緒にこの地方を支え切れるようにした。
グレイスは里の男たちに加護を与え、枯れかけていた作物が元気になり実り始める。
源一は村人達に事情を説明し、崇める神を主神から豊穣神グレイスに変えてもらうことで信仰の力でグレイスの力も増し、より土地が豊かになる。
枯れ果てていた大地が蘇り、彼女が好きだった光景が復活して、その中にかつての恋人の幻を見てグレイスは涙を流す。
「あの人もこの景色のように優しい人だった…」
「もしかして狼に与えた権能の持ち主ですか?」
「ええ、だけどこの世界で存在を維持するには信仰が必要なの。男神の彼は他の世界に行くしかなかった」
「あなたは私が愛したあの人に似てる」
グレイスはそう言って源一の頬にキスする。
「立派な神様になってね、期待してるわ」
大人なお姉さんの微笑みにドキッとする源一。
そんな彼を見てムッとするエレノア。
エレノアの反応を見たカミラはニヤリと笑う。
「お前まさか源一が好きなのか?」
「え!?そ、そんな事ないですよ」
「照れるなよ、女神様のくせにうぶなんだな」
「違いますったら!」
「どうしたの?」
「別にぃ、な」
「カミラさんのいじわる……」
「?」
そんなこんなで三人は男に厳しすぎる世界で生きていくのだった。




