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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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694回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 485:貪狼のクガイ

「貪狼のクガイ、海賊どもを率いて連合軍を大敗させたあのクガイですか!?」

 ブラッドレイの船員達がざわついている。


「あれが溟海八武衆か、それにあの船ただの船ってわけじゃなさそうだね」


「紅蓮地獄は三隻あると言われている海王船の一つです。あの一隻で小艦隊にすら匹敵する戦力があると言われています」

 マックスはそう言いながら紅蓮地獄の動きを見る。


「八武衆が姿をくらました後、魔王海軍残党が数年に渡り人類側の連合艦隊に一方的に駆逐されていた時期がありました。ある時突然クガイが現れ、彼は残党をまとめ上げ一斉蜂起させ艦隊を打ち破り、以降海のモンスター達が海賊を名乗るきっかけになった人物なんです」


「つまり海賊にとっての英雄」

 ベイルが言った。


「そしてオーガスティン諸島に暮らす人類最大の敵というわけだ」

 補足するようにガフールが言った。


「なんだか雄馬に似てるな」

 ベイルが小声で僕に囁く。

 僕は英雄なんて立派なものではないけど、奇妙な類似性は感じていた。


 ゴウンと音をさせ混沌兵装の柱が変形し、稲光を走らせながら邪神族の群れに砲塔を向けた。


「トールハンマー準備完了しました」

 

「よし、指示をしたら即座に発射しろ」


「え、この状況だとあの海賊船も巻き添えになるんじゃ」

 僕はガフールに尋ねた。


「この程度でくたばる奴ではない、発射!」

 ガフールは気にせず左手を前に突き出し、号令をかけた。


 周囲の光がトールハンマーに吸収されて瞬間的に暗くなり、その暗闇を引き裂くように雷撃が邪神族に向かって放たれた。


 巨大な雷撃は幾つにも枝分かれし、邪神族を追尾して全て焼き尽くしていく。


 そんな中紅蓮地獄に向かった雷撃は、それを阻むかのように海から突き出した巨大な氷山に防がれ海に逃げた。


「海が船を守った?」


「ボレアース、クガイの持つオブジェクトの力だ」


「これでこの兵器もお払い箱ですね」

 船員が苦笑いで言うとガフールは小さくうなづく。


「なんでだ?とんでもない威力だっただろ」

 ベイルが不思議そうに言った。


「この兵器は紅蓮地獄を沈めるために作られたものだ、効かないというのが実証された今では巨大な粗大ゴミだよ」


 こちらの会話を知ってか知らずか、紅蓮地獄は悠々とさっていく。


「なんで海賊が軍艦を助けたんだ?敵だろ?」


「貪狼のクガイはシラクス統合国のミクマリ姫と許嫁だったから、でしょうか」

 マックスがそう言うとガフールは複雑そうな顔をした。


「アイツはこの海の支配者、溟海八武衆を統べる海王ラクドの息子、つまり政略結婚ってやつさ。だが全ては昔の話だ」


「ともかくおいら達はこれで解放かにゃ?船を狙ってた海賊達はみんな魚の餌になっちまったわけだしにゃ」


「いや一緒に基地までご同行願おう」


「え、なぜですか?」


「我々が君達を見つけたという情報は貴族に報告される」


「みんなで口裏あわせてくれればバレないにゃ」


「そうしたいのは山々だ……しかし船員の中に貴族側の内通者がいるんだ。出港前にそう伝達され、定期的に向こうからこちらの船で何が起きたかの連絡が入っている。兵器を持ち逃げされないようにと、これもまた名目なのだろうがな」


「どうする雄馬」

 ベイルが尋ねみんなが僕を見る。


「人里で生活したいのなら抵抗はしないほうがいい」

 ガフールが釘を刺してきた。


 僕らの力ならこの場を切り抜けることはできる、だけど船員と船に被害がでる。

 そうなったら本当にお尋ね者だ、それは避けておきたい。


「無実だってわかれば解放されますか?」


「船も船員も無傷だ、簡単な取り調べだけで済むだろう」


「そういう事なら行きます、みんなもそれでいい?」


 僕の言葉にみんなが了承する中、リガーだけは額に手を当て首を横に振った。


 モーガンが無事かどうか心配だが、今は合流しないほうが彼も安全なはずだ。

 僕らはガフールに連れられ軍港の留置所に行くことになった。

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