693回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 484:紅蓮地獄
船員達は一斉に武器を鳥獣人に向けた。
彩り豊かな羽毛と小柄な体格、インコ獣人って感じだ。
「おっとやめてくれよ、俺はあんたらと取引しにきたんだからサ」
インコ獣人は気取った様子で言った。
銃や弓でも狙われてはいるが、翼のある彼なら逃げ切れるという余裕が見て取れる。
ガフールは腕を横に伸ばし部下達に武器を収めさせると、一歩前に出た。
「あんたが船長さん?」
「ああ、お前は見覚えがある。ブレーメン海賊団の一員だな」
「その通り、自己紹介の手間が省けたナ。うちのキャプテンが助太刀がいるか聞いてこいだとさ」
「海賊風情が助太刀だと、たった一隻で何ができるっていうんだ!」
若い船員が叫ぶ。
インコ獣人は意に介さずガフールの返事を待っている。
ガフールは周囲を見渡し、邪神族がこちらに向かっているのを見るとため息をついた。
「いいだろう、背に腹は変えられん」
彼はそう言って腰に下げていたサーベルをインコ獣人に投げて渡す。
金と宝石が使われた高級そうな剣だ。
「ほほう、こりゃまた上等な」
「金貨50枚の価値はある、それで手を打ってくれ」
「よござんしょ、では毎度ありィ」
インコ獣人はニタリと笑うと逃げるように飛び去っていった。
「中佐、あんな奴を信用するんですか」
「他に手があれば追い払いもするが、今は少しでも時間が欲しい」
ガフールの背後では起動し始めた混沌兵装が怪しい光を螺旋状に明滅させ始めた。
どことなく禍々しく、見ていると気分が悪くなる光だ。
「それにブレーメン海賊団にはアイツがいる」
ガフールがそう言うと、海が荒れ始め、高波に乗って真っ赤な海賊船が現れた。
その海賊船が風を連れてきたかのように強風が吹き荒れ、辺りの霧を一掃する。
海賊船は崩れる波と風を使い猛烈な速度で邪神族に向かっていく。
まるで直滑降のスキーのような状態だ。
「イィヤッホウッ!!」
海賊船から海賊達の叫び声がした。
邪神族の標的が一斉に赤い海賊船に移り、触手を使った攻勢が始まる。
しかし海賊船はヒラリヒラリと攻撃を交わし、側面の大砲を連射しながら邪神族を掻い潜っていく。
おちょくって遊んでいるようにさえ見える様子で、赤い海賊船は邪神族の注意を全て一手に引き受けてみせた。
「でたらめだ、なんなんだアイツら」
船員は唖然としながら呟く。
「あれが海賊船『紅蓮地獄』、溟海八武衆『貪狼のクガイ』の船だ」
ガフールはそう言った。




