688回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 479:海の勇士ガフール
軍艦から降ろされた縄梯子を使い、二人の人間の軍人が僕らの漁船に降りてきた。
一人は船の牽引のためにロープを使った作業を始め、もう一人は僕らにサーベルを向け縄梯子を登るよう促してきた。
言われた通り甲板まで登ると軍人達が数人僕らを取り囲み、武器を回収し身体検査をし始めた。
他の作業をしている人員達も含めて、乗組員達が妙にピリピリしているような空気がある。
それに帆の付いていないマストのような巨大な荷物がどことなく異様な雰囲気を放っていた。
「その手を離せこいつ!」
「嫌だギョ、それはギョリーナちゃんにもらった大切なペンダントなんだギョ」
アドニスはそう言いながら、取り上げられそうなペンダントを必死に庇っている。
「モンスター風情が、舐めるんじゃねえ!」
軍人の一人が棍棒をかざし、アドニスの頭を殴ろうとした。
僕は咄嗟に僕を調べていた軍人を押し、その力を使いスライディングし、軍人達の隙間を抜けて左の踵を蹴り上げ棍棒を弾き、アドニスを襲った男の鳩尾に右の掌底を入れて突き飛ばした。
一瞬の間を置いて、状況を理解した軍人達が一斉にサーベルを抜いて僕に殺気を向けた。
ひりつくような空気の中、僕はいかにみんなを逃すか考える。
幸いまだオブジェクトは奪われてないし、いざとなれば大罪魔法もある。
ただ使ってしまうとこの船が沈むだろうから、牽制しておこう。
「多勢に無勢だから手加減できないぞ、それでもいいならかかって来い」
僕の言葉は軍人達を逆上させるだけだったらしい、みんな顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。
向こうがやる気なら仕方ない、正当防衛ってやつだ。
リガーは頭を横に振り、マックスは「あなたらしい判断だ」と笑い、ベイルは「雄馬がやる気ならやってやるぜ」と拳を打ち鳴らして臨戦体制に入る。
軍人達が怒号をあげて一斉に襲いかかろうとした次の瞬間、一発の銃声が響きその場にいた全員が動きを止めた。
「なんだ?どうした?」
ベイルが怪訝そうな顔をする。
靴音が聞こえると、軍人達が一斉に左右に分かれ、彼らが作った道を一人の男が歩いてきた。
他の軍人とは一線を画す存在感の壮年。
古傷だらけの姿は歴戦の勇士といった風格がある。
「あなたがこの船の責任者?」
「いかにも。私はガフール・ドゴール中佐、護衛艦ブラッドレイの指揮官だ」




