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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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684回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 475:人類の敵

 翌朝ダルゼムさんの船の出航準備を待っていると、昨日出会った商人の女の子が話しかけて来た。

 魚を仕入れに商船でやってきたばかりらしい。


「貴方ですね、昨日魚人達を盗賊から救ったのは」


 お礼を言いに来たにしては剣呑な雰囲気だ。


「はい、一応そうですけど」


「何が目的なのです、他の魔王候補者と戦う為の戦力を集める為ですか?」


「いきなりなんだよ」

 ベイルが女の子を軽く睨む。


「奴隷には聞いていません、答えなさい山桐雄馬」


 なんだと!?とくってかかりそうになったベイルを宥めながら、僕は彼女に聞く。


「僕の名前を知ってるんですか?」


 僕の言葉に彼女は眉をひそめる。

 質問に質問で返されたわけだから無理もないけど、僕のことを知っているならその理由から聞いたほうが早そうだ。


「自分が今人間側にどれだけ危険視されているか知らないわけではないでしょう」


「どういう事ですか?」


 彼女は僕の反応が意外だったらしく少し目を丸くした後、呆れたように首を横に振った。


「昨今モンスターが魔王の後継者を探しているという噂が広まっています、そしてそれは私たち人間にとって最も危惧する事」


 彼女は自分の商船の仕事の進行具合を確認しながら、ちらりと魚人達を見て目を細める。


「魔王候補者と呼ばれるモンスターは最優先で抹殺すべき対象とされている」


 彼女は僕を真剣な目をして見つめた。


「そしてそれはあなたも同じなのですよ」


「雄馬が抹殺対象!?なんでだよ、人助けしかしてねえだろ」


「そう、今の所は。あなたの場合はブロードヘインやテンペスト島の功績からまだ人類の敵と断定するまで猶予が与えられています。ですが、常に怪しい動きがないか警戒されていると思っておいた方がいい」


 彼女がチラリと一瞥した場所に、商人にしては佇まいに隙のない男が一人、船の上から僕らを見つめていた。

 おそらく盗賊づてに伝わった情報から、派遣された監視役か何かなのだろう。

 

 冷静に考えてみるとこうなるのもおかしくはない話だ。

 モンスター側で生活しすぎて少し感覚が麻痺していたのかもしれない。


「もしかして僕に忠告しに来てくれたんですか?」


「勘違いされては困ります、私は商売の邪魔をしないで欲しいと言いに来ただけです」


 商人は会話相手の内心を読み取り、商談を有利に進めるのが仕事だ。

 彼女も例に漏れず僕との会話で僕の考えを察したらしい。

 もう不審な相手との会話という雰囲気ではなくなっている。


『どちらかというと間抜けな奴を相手にしているって雰囲気だがな』

 グレッグが僕の頭の中でそう言った。

 ムッとしたけれどその通りなのでなんとも言い返せない。

 僕は彼とのやりとりを顔に出さないようにした。


「人間との取引がなくなったって話なのに、魚人の魚を買ってどう稼いでるのにゃ?」


「魚人達は非常に優秀な漁師達です。人間では不可能な場所での漁を行うこともでき、その質も量もずば抜けている。私のブラックオリーブ商会が人間の漁師から仕入れたということにして売り捌けば非常に良い値がつく。愚鈍な他者が逃した商機は掻っ攫ってこそですから、この漁師町は私にとって重要な場所なのです」


「ブラックオリーブ商会……、あなたはもしや代表のロバータ・オルブライトですか」

 マックスが何かを思い出したように言った。

 どうやらこの地方では有名な人らしい。


「ええ、無骨な鎧を身につけている割に物知りですね」


「もしかして金持ちなのかにゃ?」


「オーガスティン諸島で五本の指に入る富豪ですよ」


「ふぅん、にゃっふふ」

 リガーが何か悪だくらみをするかのように笑った。

 不審行為するなって言われたばかりなのに盗みに入るつもりだろうか。


「駄目だからね?」

 僕が釘を刺すと、リガーはギクリとしてとぼけたフリをして「なんのことやらにゃー」と答えた。


「既定路線を外れるには賢くやらなければ食い物にされて破滅するだけです。どうやらあなたはお人好しのようですから、くれぐれも足元には気をつけなさい」


 言いたいことを言ってスッキリしたのか、ロバータは満足げな顔をしてさっていった。


「なんなんだあいつ」

 ベイルは首を傾げて彼女を見送る。


「生き馬の目を抜くような忙しい生活をしてるとあんな感じにならざる得ないのかもね」


 人当たりは難ありだけど、彼女は魚人救出のお礼に忠告がしたかっただけらしい。

 注意がかけてたことを知れたのは助かった。


 そうこうしていると出航準備が終わり、ダルゼムさんが僕らを呼びに来た。

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