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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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683回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 474:漁師町スマウスの受難

 僕らは港の酒場で魚人さん達から食事を振舞われる事になった。

 こちらの料理はポートロイヤルの海賊料理と違い、正統派の海鮮料理づくし。

 刺身盛りや煮付けなど和食まみれなのが意外だったが、文化の違いというやつだろうか。


 港で採れた新鮮な魚だけあってどれも美味しい。

 何よりも机に乗り切らないほどの量に豪華さ。

 伊勢海老のようなものから、どでかい蟹まであって豪勢すぎて少し気が引けてしまうほどだ。


「はえー、でっけえハサミだなぁ……んが!?」


 ベイルが蟹に顔を近づけると、鼻を蟹に挟まれひっくり返った。


「いだだだ、ふーまとっへ!これとっへ!!」


 そんな彼をみてみんな笑っていた。

 

 ベイルを蟹の魔手から救い出し、食事を楽しみながら僕らは魚人達のこれまでの経緯を聞く事にした。


 この港は漁師町スマウスというらしい。


 魔王と人間との戦いの後、オーガスティン諸島のモンスターの大半は人間と共に生きる道を選んだ。

 この地域のモンスターをまとめ上げる溟海八部衆を中心に人間と友好的に暮らしていた。


 しかし魔王の遺志を継ぐと謳った魔王軍を名乗るモンスター達が暴れ出し人間側に被害を出し始めた。


 さらには十数年前のある日を境に人間達とのパイプ役でもあった溟海八武衆の大半が消息不明になって、そこから関係が悪化の一途を辿っているらしい。


 魔王軍から勧誘もあったが、魚人達は戦いから離れすぎて殺伐とした生活に戻れない人ばかりになっていた。


 スマウスは近隣の人間の街と仲良く取引も行っていたが、そのようなトラブルが頻発した後、人間達は彼らと一才の取引をしてくれなくなった。


 モンスターを嵌めて悪党と言いがかりをつけて追い払い、その功績で英雄扱いされる人間。


 モンスターの人間との共存のための活動支援を悪意あるモンスターが悪用して、金品運搬の用心棒を引き受け人間を騙し皆殺しにしてしまうなどの残忍な事件も起きた。


 その煽りを一番温厚なスマウスの魚人達が一手に引っ被ってしまい、人間たちの一般人が徒党を組んで山賊のふりをして襲撃を繰り返すようになった。


「また災難な話だにゃあ」


「それでなんですがギョ、皆様方にはどうかこの町の用心棒になって欲しいのですギョ」


「わりいけどそいつは無理な相談だぜ」

 僕らの返事を待たずしてモーガンがそういうと、手にしたジョッキ一杯のエールを一気に飲み干し机に勢いよく置いた。


「雄馬達は目的のある旅をしてるんだ、ここにとどまってるわけにはいかねぇ」


「でも人間達がまた襲って来たら、俺達には何もできないギョ。どうか助けてほしいギョ、お願いしますギョ」


 魚人達は一斉に僕達に懇願した。

 その様子を見てダルゼムさんは困っているようだ。


「面倒な事になったにゃ、さておいら達のリーダーはこの状況どう捌くかにゃ?」


「なんだよリガー、他人事みたいに言いやがって」


「なんとかするよ」


「お手並み拝見だにゃ」


 リガーが言いたいのはお人好しもほどほどにしておけという話なんだろう。

 こうなる気はしていたから心の準備はできている。


「皆さんに質問です。盗賊達は強者が弱者かどちらかわかりますか?」


 僕の突然の質問に魚人達は戸惑いざわついた。

 しかし1人がおっかなびっくりしながら口を開く。


「強者だギョ怖いギョ、俺たちは弱者だギョ」

 その言葉に魚人達は納得した様子でうなづいている。


「正解は彼らも弱者、です。なぜかわかりますか?」


「わかんないギョ」

 魚人は困惑顔で答えた。


「自分の弱さに対して開き直っているからです。彼らはその方向性がおとなしいあなた達への暴力に向かって、あなた方は僕らに頼る方に向かってる。彼らもあなた方も弱者であることに変わりないんです」


 僕の言葉に魚人達はバツが悪そうな顔をした。


「なぁ雄馬、言いすぎじゃねーの?」

 ベイルが僕を嗜めるようにいう。


「言う権利はあるにゃ、現状おいら達は連中のタカりのターゲットにされてるわけだしにゃ」

 リガーは魚人達に聞こえないよう小さな声で言う。


「タカりって感じ悪い事言うなぁ」

 ベイルは少し不服そうに言うと酒を煽る。


「こういう事はなぁなぁにしてやり過ごすと不都合を誰かのせいにしがちですから、雄馬殿は彼らにそうなって欲しくないのではないかと」

 マックスが僕とリガーを弁護してくれた。


「首を突っ込んだ僕にも責任はあるからハッキリ断るかキッチリ解決する、どちらかはしておかないとね」


 僕らがヒソヒソ密談していると、魚人の1人が意を決して口を開く。


「でも、どうしたらいいんギョ?戦い方なんてわからないギョ」


 人間と魔王の軍勢が戦ってから年月が経ちすぎてる、温厚な彼らがその間一度も戦闘をしていないとなれば世代変わりもあるだろうし無理もない話だ。


「難しく考える必要はないです。漁をするときに魚を追って仕留めますよね、それを人間相手にすればいい」


「さらっと同族に攻撃すればいいって言うのちょっと怖いぞ」

 ベイルがボソッと僕に突っ込む。


「こいつは前からこんな感じだにゃ、必要がある事なら嫌悪感とか度外視して実行しちまうのにゃ」

 リガーがそれにヒソヒソ声で答える。

 人が説得してる最中にそういうこと言うのやめてほしいんですが!

 僕は気を取り直して話を続ける。


「あなた方一人一人ができる最善を尽くすことが大事です。弱者であると誇示して他者に依存せず、立ち塞がる問題を自分達で解決する意志を持つこと。それができればあなた達は大切な人を守る力を持てる」


「いつも今日みたいに都合よく助けが入るとは限らない、犠牲が出たら取り返しがつかねぇ。泣いても嘆いても誰も救われないからな」

 モーガンが合いの手を打つ。

 魚人達は少し気持ちが揺れているようだ。


「自分の中の弱さに打ち勝ってください。容易い事ではないかもしれません、でもそれが出来るだけの力と心があなた方にはあると僕は信じてます」


 僕は気持ちが伝わるように彼らの心に届くように、祈りを込めて言葉を口にした。

 その気持ちが通じたのか、魚人達は悩みながらも前向きな表情をして僕を見た。


「この港を救ってくれた魔王候補様がそこまで言ってくれるなら、自信はないけどやってみるギョ。でもどうしようもなくなったら助けを呼んでもいいギョ?」


「お前らなぁ」

 モーガンが呆れた様子で言う。


 一歩進んでなんとやら、でも彼らがその気になってくれたのは嬉しい。


 僕はその問いに笑顔でうなづいて答えた。

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