69回目 デストレイター
夢の中で明日の世界を生きる探偵 候道 仁一。
未来からやってきたと彼の事務所に女子高生の少女るいが現れる。
仁一がるいの素性を調べると彼女は普通に出生し、普通に近所の高校に通う女子高生だった。
中二病ってやつか?と思いながら仁一が再び彼の事務所に訪れたるいに証拠の書類を投げると、
彼女はそれを見るまでもないと放置して事務所の冷蔵庫から牛乳を取り出して飲み始める。
「私は未来から転生してきたの、パラドックス変異を利用して、私という個人の記憶を持つ赤ん坊をこの時代に発生させた。
それが未来で発明されたこの世界におけるタイムリープ技術」
「なるほど最近のSF小説は一捻りしてあるわけか、それでその小説には次にどう書いてあるんだ?」
「未来ではパラドックス変異という超自然現象が問題になっていてね、
私はその原因を取り除く掃除屋をしているの。
その原因の一つがこの時代に生まれ始めている時間操作能力者達、私達は刻眼攪乱者デストレイターと呼んでいるわ」
仁一は自分の力について思い浮かべる。
「それでそれが本当だとして俺に何の用だ」
「デストレイター探しをしてほしいの、貴方に」
「未来人なのに過去の世界の探偵に頼るのかよ、未来のスーパーガジェットとかで解決できないのか?」
「そんな都合のいいものあるわけないでしょ、いや、まぁなくはないんだけど……私の所まで回ってこないのよ」
「ははぁん、お前下っ端だな?だから仕方なく探偵を雇うことにしたと」
「ただ適当に人選したわけじゃないっていうのはわかってるでしょ?」
「お前のSF妄想に話をあわせてやるとすれば俺は確かに昔から妙な夢を見るが、
それが何かの役に立った試しはねえよ。考えても見ろ、役に立ってたらこんな仕事してるか?」
「だからいいんじゃない、貴方は自分の力を持ち腐れて生きてきた。
そのおかげでほかの能力者からまだ認知されてない、
私たちは未来で調べてるから貴方みたいな人の存在を知っているけどね」
それから仁一とるいは協力して様々な立場のデストレイターを見つけては、
彼女の手にしたDNA変換ウィルスを使いその能力を奪っていった。
仁一は他の時間能力者との対決を進めていくうちにある疑問を抱き、
旧知の友人の事を思い出し彼を探した。
以前彼が自分の能力に対して悩んでいた時に相談をしていた歴史学者の山城という男だ。
今も未来も過去と地続きの現実に過ぎない、
過去を知る事で未来を知ることができるというのが彼の持論だった。
仁一の話を聞いた山城はやはり彼と同じ疑問を抱く。
つまり、デストレイターから時間能力を奪う事で発生するパラドックスについてはどう処理しているのか。
推測されるに未来において現代は中世における暗黒時代に人為的にされているのだろうと山城はどこか怒りを感じさせる表情で言った。
この時代に生きる人間のそれぞれの生きた痕跡を全て消し去ってしまう冒涜、
未来に殺された時代を僕たちは生きているのだと、彼は言った。
精神病院に面会に向かったるいは、自分と同じ時間転生者の同僚に合う。
時間転生者は時々生きなおしの途中で発狂してしまう。
その精神病院も時間転生者のために設立されており、三割ほどが身内の入院患者だった。
ある時を境に未来からの事象干渉が行われ始める。
時を同じくして仁一のスマートフォンに文字化けした着信が届き始めるが、
通話してもノイズと幽かな声と共にすぐに途切れてしまう。
るいは自分の知らない計画が動き始めている事に焦りを覚え、組織に確認する。
「昔閲覧禁止情報を調べていた時にこの時代に発生した病気についての項目があった、
そこには今流行しているウィルスの情報はなかった」
「ウィルスの拡散方法を知っていますか、人間の体を工場にして生産したウィルスをばらまくんです。
それと同じメカニズムを私は知っている、偶然の一致ですか?」
隕石の落下。地震。太陽フレア。全て確率によって制御されている、数字がすべてを支配している。
記録上存在しなかった事件が次々に起きていた。
まるでなにをどこまでできるか試しているかのように。
上はなにをしようとしている?
仁一はるいに組織がデストレイターを処分させていた本当の理由、
そして今の時代を暗黒時代にした組織の本当の狙いを話す。
そしておそらくデストレイターが発生した原因はパラドックス変異によるものである事を。
組織は発表する前から時間転生技術の実験を繰り返し、
その結果精神病院などの社会構造にも組織が深く関わっている事。
そしてその実験の結果パラドックス変異が起こり、その発露の第一段階としてデストレイターが生まれ始めた。
仁一は自分の能力がどんどん強くなっていると打ち明ける。
それはこの世界に未来からうける干渉が強くなったこと、
そしてデストレイターの絶対数が減ったことで変異の影響が強く反映され始めたのだろうと。
彼の夢の能力はすでに夢に彼が干渉し、
彼が夢の中で行った事は目が覚めた後彼が手を出さなくてもその結果へと収束するようになった。
文字化けした電話、その相手は今より先の時間にいるるいである事。
彼女から聞かされた方法で仁一は夢を使い、
実現不可能なパラドックスを起こすことで未来からの干渉を防ぐ時間的な防壁を創ろうとする。
仁一はある研究機関にたどり着く。
自分の記憶上の体験に対して人工的な夢という形で干渉できるシステム「ヒュプノス」。
本来カウンセリング目的に開発されていたそれを被験者として使い始める。
仁一は自分の記憶にある経験と夢の中の未来の様子が違う事に気づく。
自分の辿ってきた過去、つまり未来の記憶が編纂されている。
敵側のデストレイターが未来に干渉しているのだ。
未来の世界で過去の仁一と電話していたるいが敵側のデストレイターにより眼前で撃ち殺されるのを目撃してしまう。
夢の中の変わってしまった未来で集められる情報を集めてそうなった原因を突き止め、
現実でその原因を潰して仁一は未来とるいの命を守ることに成功する。
未来は変わり、時間転生が不可能にはなったがるいは当たり前のように仁一の前に現れる。
彼女の人格や記憶が変わっているのではないかと心配している仁一を騙してからかいながら、
自分を心配してくれた彼に微笑むるい。
「自分が未来人だと思い込んでる奇人変人なんて当たり前にいるんだよ、
きっと私もそういう人って事になったんじゃないかな」
「世界が未来を守ったご褒美にそのままにしてくれたのかもな。
もしかして今の現実が俺の夢の中でしたなんてことはないといいんだが」
「試してみる?」
キスをしようとするるいに顔を赤くしながら、仁一は彼女をちゃかして止める。
「年が離れすぎてる、犯罪だ」
「じゃあ20過ぎるまでこの事務所で働いてあげるよ、時間操作能力なくなって仕事大変でしょ」
騒がしい毎日になりそうだなと思いながら、仁一はそんな未来に思いを馳せてほほ笑むのだった。




