681回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 472:魚人が夢見る高き頂
「うーん、なるほどなぁ」
「何がなるほどなんだ?」
ギョリーナさんを見つめているとベイルが話しかけてきた。
「彼女の魅力が少しわかってきたかも」
「マジか、どんなとこだよ」
「まず歩き方や会話中のふとした仕草がかわいい。それにあの艶とハリのある肌、手の指の形のバランスはモナリザのそれにも似てまるで芸術だ。美しさで人は劣情を抱かされるものなんだと気付かされたよ」
「いきなり早口だな……よくない道に目覚めそうだからそこらへんでやめとけ」
「そう?興味の幅が広がるのはいいことだと思うけどな……」
「目が怖えんだって」
「お前なかなかわかってるギョ」
「え?」
僕の話を聞いていたのか、毛深いムキム筋肉魚人と色黒バキバキ角張り筋肉魚人が絡んできた。
陽介によくやられたから覚えがある、この距離感はアイドルファンの勧誘の間合いだ。
僕は思わず三戦の構えで警戒した。
「なんだよ雄馬いきなり可愛いポーズして」
ベイルが困惑している。
「三戦だよ、由緒ある戦いの構えだよ」
空手で使われる構えで内股気味に立ち、肘を脇腹に、握りこぶしを上に向ける。
こうすることで下半身に力が入り滅多なことでは倒れなくなる。
しかし美少女がやると似合いそうな可愛いポーズに見えるのも特徴の一つだ。
「本当かよぉ」
案の定ベイルはいぶかしげな顔でそういった。
「話は聞かせてもらったギョ、あんた人間にしてはなかなか見る目があるギョ」
毛深いムキムキの腕で魚人が僕の肩を抱いてきた。
「ギョリーナちゃんの魅力深掘りだギョ」
色黒筋肉の魚人も逆サイドから僕の肩を抱く。
しまった!ベイルに気を取られて回避に入るのが遅れた、こうなってはもう逃げられない。
ベイルが二人に抗議しているが、スイッチの入った二人が聞く様子はない。
どうやら二人は熱烈なギョリーナファンの様だ。
さっき彼女を守るかで揉めてたのもこの二人だった。
新人勧誘ムードの暖かな空気が僕を包む。
道中つらつらとギョリーナの良いところについての解説や、面白エピソードやファンの集いでの最近のあれこれなどを早口で聞かされ続けた。
ちなみに毛むくじゃらの方がアドニス、角張筋肉はデイモスという名前なのだそうだ。
「魚人男子たるものギョリーナちゃんとの魚拓は永遠の憧れだギョ」
アドニスは夢見る様に遠く見つめながら言う。
それを見た見てデイモスも「わかるギョー」とこくこくうなづく。
「ん?魚拓?」
「知らんのかギョ?頭から墨をダバーッと被ってギョ?」
アドニスはそう言うと目線をデイモスに向ける。
「でっかい紙にバターン!と二人で情熱的に倒れ込むんだギョ!」
デイモスはサムズアップしながらそう言って二人で熱くうなづく。
うーむ二人が楽しそうで羨ましくなってきた。
「魚拓を取るのって実現可能なんです?」
「おっお前も狙うかギョ?」
「そのためにはギョリーナちゃんの彼氏にならないとならないギョ、競争率激ヤバだギョ」
「人間で言うところのキスとかに近い事なんですね」
「道は長く険しいギョ、でもだからこそ挑む価値がある……そうは思わないかギョ?」
「ええ!わかりますとも!!」
僕の言葉と共に僕ら三人はハイタッチし、腕を組みかわし、見つめあってうなづく。
僕は二人との熱い友情の芽生えを感じた。
「おーい雄馬ぁ、戻ってこーい」
ベイルはしょぼくれながら僕の背中にしがみつき、首元をぺろぺろ舐めながら言った。
「ひゃうっベイル、首はやめて……」
「おっ?ここが弱点か?へっへっへ」
「お前さん達いい加減にするにゃ、そろそろ港に着くにゃ」
リガーはやれやれと僕らを嗜めた。




