679回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 471:絶世の美女
琥珀のダガーが光を放ち、周囲の生命力の在処が伝わってくる。
まず調べるのは盗賊と魚人の位置だ。
魚人は廃坑の中程の場所、盗賊の配置から考えるとやはり正面突破では人質にされかねない。
次に調べるのは地中バクテリア。
空白状態になっている場所が採掘場の内部構造だ。
「なにやってんだ?」
モーガンが不思議そうな顔で言った。
「この辺りの生き物の場所を調べてるんだ。今は川藻の場所を探してるとこ」
「川藻?洞穴にはないだろそんなの」
「洞穴にはね」
と返事をしたと同時に反応があった。
「あった。川藻があるって事はその上には川が流れてるって事、つまりその底面を採掘場に繋げてやれば……」
「まさか、おい待つにゃ雄馬!」
僕は琥珀のダガーで植物を生み出し、川底と廃坑に通じる穴を開けた。
廃坑内部にドドドと轟音が響き、見張りの盗賊達が動揺している。
「あわわ……」
リガーはそそくさと逃げ出した。
「水が来る、みんな避けて!」
僕の言葉と同時に、廃坑の入り口から無数の物や盗賊が大量の水と共に噴出してきた。
「どわあ!!?」
みんなは慌てて押し寄せる洪水を避けた。
噴出する濁流の中、押し流される盗賊達を尻目に魚人達が悠々と泳いで出てきた。
魚人達は濁流の中でもある程度自由に泳げるようで、僕らの姿を見かけるとこちらにやってきた。
「いちにーさん……よし、全員いるみたいだ」
僕は川底に開けた穴に木の根を渦巻くように詰めて塞ぎ水を止めた。
「めちゃくちゃやりやがるなお前」
モーガンはそう言うと僕の背中を叩きながら豪快に笑う。
「その人間がうちらを助けてくれたギョ?」
不思議そうな顔をしながら魚人達が僕を見た。
「お手伝い程度ですけどね」
「よく言うぜ」
モーガンは上機嫌だが魚人達は少し僕を怖がっているようで、おずおずしている。
「ギョリーナちゃんは俺が守るギョ、安心するギョ」
「ギョーっ!抜け駆けするなギョ!」
一人の魚人を庇い揉め始めた。
そんな彼らを首を傾げてみていると、モーガンが僕の肩を軽く叩いた。
「アイツらが庇ってる奴な、魚人一の美人って言われてる女なんだぜ」
「……へぇーッ!」
魚人達に失礼のないよう無理にオーバーなリアクションをとる僕を見てモーガンはくすくすと笑う。
正直みんな魚に艶かしい腕と足が生えた怪生物にしか見えない。
「悪食性欲魔人の雄馬でも流石にこいつらは無理か」
「ベイル僕のことそんなふうに思ってたんだ……」
ちょっぴりショック。
でも冷静に考えると言われても仕方ないことはしてるかもしれない、主にベイルに。
「二人きりになったらお仕置きだからね」
ベイルの耳元に囁くと、ベイルは赤い顔をして「程々にしてくれよ?」と期待と不安の入り混じった目で僕を見た。
そんな彼が可愛くて頭を撫でていると、魚人達とモーガンが不思議そうな顔をして僕らを見ていた。
「お前らいつもそんなイチャついてるのか?」
「雄馬は変わり者だからにゃー。さぁ目的は果たしたし面倒ごとになる前にさっさと撤収にゃ」
見かねたリガーがその場を仕切り、僕らは漁港への帰路についた。




