668回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 461: 海賊料理
運ばれてきたのは海賊サラダ「サルマガンディー」。
牛や豚や鶏肉やイワシや卵をふんだんにぶち込んだ豪快すぎるサラダだ。
それからカンパンや干し肉を魚と合わせて調理して料理にしたもの。
これは意図的に食材に縛りを与えて再現しているらしい。
食感や食材の活かし方が独特で癖になる味だ。
ベイルは山羊のお頭の香草焼きに齧り付き、リガーは届いたシチューを見て戦慄している。
「な……なんだぁこれはぁ……」
見た目のアレさについ地が出たらしく語尾のにゃが消えている。
どんなのかと見てみると、魚の頭や内臓、それにその他の食材の端材などの捨てる様な部位を雑にぶち込んだような、控えめに言って生ゴミ汁だった。
「うわ、匂いやべーなそれ食えるのか?」
匂いに敏感なベイルも引いている。
「た……頼んだ以上責任取るにゃぁ」
リガーは涙目になりながらスプーンでスープをひとすくいし、口に運んだ。
「んにゃ?」
リガーの表情が意外そうな様子に変わる。
彼は迷う事なくもうひとすくいし、匂いを確かめ口に運ぶ。
「お、おい大丈夫なのかよそんなの食べて」
ベイルがオロオロし始める。
しかしリガーは何やら納得した様子でうーんと唸ると「これ美味いにゃ」と笑顔になりがっつき始めた。
「あわわ雄馬どうしよう、リガーのやつおかしくなっちまった」
「人聞きの悪いこと言うなよにゃ、食うかにゃ?うまいにゃ」
満面の笑みでリガーはいう。
ベイルは怖気付いて首を激しく横に振る。
「じゃあ一口もらっていい?」
「おい雄馬やめとけって」
「大丈夫大丈夫、たぶん」
「多分ってお前なぁ」
僕はリガーの器からひとすくいシチューをもらい食べてみた。
口の中から強烈な匂いと共に広がる食材の旨みと味付けの妙、それらが奇跡の様な相乗効果を生み独特ながらも癖になる風味に変わって行く。
「すごい、まるで魔法みたいだ」
「だろ?にゃ」
リガーは満足そうに笑う。
料理名が魔法のシチューだけはあるということか。
リガーは名前に興味を持ち頼んだのだろうけど、当たりだったみたいだ。
「そういった意表をつく様な独創性のある料理がこの店の人気の一因なんですよ」
マックスさんはそう言いながら器用に兜をしたまま魚料理を食べている。
というかアレは魚なんだろうか、うねうね動く触手のようなものが入った毒の壺にしか見えない。
「でも考えてみれば海で食べ物を確保するなんて至難の業だから、海賊はなんでも食べなきゃいけない。だから普通じゃ食べない様なものも調理して食べてたんだ」
「普通じゃなさすぎね?」
納得しかけていた僕にベイルがツッコミを入れる。
料理もインパクトがあるけど、なにより衝撃的だったのが一品につき一杯ピッチャーサイズのビールが無料でついてくるというところだ。
僕は見た目が子供に見えたらしく牛乳がついてきた、なんにせよ気前がいい。
人間の海賊は海で魚を食べることはなかったと聞いたことがあるけれど、この世界の海賊は基本モンスターという事もあり事情が違うらしい。
この店の客を見るだけでも魚人や海獣系獣人が沢山いる。
にしても船でハードに体を使う人ばかりだからだろうか、人間の客も獣人に負けじとボディービルダーみたいな良い体をしている。
みんなガッシリとした体格にムキムキの筋肉が乗った筋肉だるま、筋肉の異種格闘技戦みたいな光景だ。
その逞しい肉の爆弾で酒場を吹っ飛ばしちゃうのかい?みたいなセリフがどこからか聞こえた気がする。
「おい雄馬、お前今すげえ顔してたぞ」
「えっ嘘、ほんとに?」
おっといけない、顔に出たらしい。自重しよう。
「なんで俺の腹筋をまさぐるんだよう」
ベイルは僕にお腹を撫でられ困惑しながらも満更では無い様子だ。
「ふふっベイルもいい体つきしてるよね……」
「自分も鍛えてますので、鎧の下はムキムキですよ」
マックスさんがなぜか食い気味に僕にアピールしてきた。
「ほんとに?確かめてもいい?」
「もちろんですとも!」
嬉しそうにそういうとマックスさんは鎧のベルトに手をかけ始めた。
「こんなとこで脱ぐのはやめとくにゃ、宿屋にしとけ宿屋ににゃ」
リガーはやれやれといった様子で僕らを諭した。
「それじゃおふざけはここまでにして、これからどうするか打ち合わせしようか」
僕がそう言うとみんなは賛同し、僕らはこれからの事について作戦会議を始める事にした。




