667回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 460:港町ポートロイヤル
酒場に向かう途中、すごい匂いをさせながら蜜蝋を作っている人たちがいた。
ベイルが珍しがるので見学することにした。
蜜を抜き終わったミツバチの巣を沸かした湯に入れて溶かし、目の荒いザルで漉してゴミを取る。
そのあと濾液を冷まして浮いて固まった蜜蝋を取り出し火をかけて整形する。
各工程に分けた鍋を使い、おじさん達は手慣れた手つきで作業している。
その場で販売もしているらしく、船乗りが木箱に詰めてたくさん買って行った。
塊だけじゃなく蝋燭や化粧品、いろんな商品がある。
眺めているとおじさんが僕らに声をかけた。
「兄さん達見ない顔だね、旅人かい?こいつで作った蝋燭は甘い匂いがして気持ちが落ち着くぜ。お土産に一つどうだい」
綺麗な箱に入ったお土産用の蝋燭が良い感じだ。
「じゃあそこの箱入りの一つください、ミツバチの巣を溶かした物ですよね?こんなにいろいろ用途があるなんて意外です」
「新しい巣箱に塗ればミツバチが巣を作り始めるし、化粧品、皮なめしなんでもできるぜ。特に忘れちゃいけねぇのが船板の隙間を埋めだな、こいつなしに作った船は海に浸水しても一週間持たねえから、船乗りには大事なもんなんだ」
港町ならではの光景みたいだ、観光地の側面もあるからそういった需要も見込んで実演してるのかもしれない。
「蜂のふっていろんなこほに使へるんはな」
ベイルが鼻に紙を突っ込んだ顔で僕に言う。
「ブフッ」
ベイルの顔が面白くて僕は思わず吹き出しそうになって顔を背けた。
「なんはよ、なんは変なこほ言っはか?」
「ごめんベイル、ちょっと落ち着くまで待って」
キョトンとした様子の彼が余計に面白くて笑うのを堪えるのが大変だった。
そんな僕を見てリガーは呆れ顔、マックスは静かに微笑んでいた。
マックスの案内で酒場に入り、彼の説明を受け各々料理を注文する。
海産物の料理がメインのようで、酒場というよりちょっとしたレストランみたいな品数がある。
元海賊凄腕の料理人をこの店のオーナーが雇ったとの事で、店内には観光客やごろつきの様な風体の人やガラの悪いモンスターまで入り乱れ繁盛していた。
知る人ぞ知る名店という奴らしい。
「海賊の料理かぁ、どんなのなんだろ」
「無法者を雇うなんて豪胆なオーナーですよね」
「いやちょっと待つにゃ、もしかしてここに居るイカつい客連中って……」
「海賊ですよ」
「それが何か?みたいな顔でしれっというなにゃ!」
マックスにツッコミを入れながら、リガーは辺りをキョロキョロ見回し始めた。
「あれ絶対海賊相手に盗み働いて怨み買ってるんだぜ」
ベイルがニヤニヤしながら僕に耳打ちし、僕は苦笑する。
「ははは、平気ですよ。ここでのいざこざは海賊達も御法度って事で通ってますから、破ったら入店禁止なのでみんな大人しいものです」
とはいうもののよく見てみると海賊達が喧嘩を始めそうになっては凄まじい形相で堪える様子が散見されて、リガーにとってはあまり安心できる話ではなさそうだった。
「海賊達が律儀に約束事を守るほど美味い飯かぁ、楽しみだな雄馬!」
ベイルはすっかりウキウキ気分だ。
料理が来たので僕らは食事をとりながら今後のことを打ち合わせすることにした。




