664回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 457:いざ新天地へ!
数日後。
僕はメルクリウスの港、地上へのゲートがある広場に居た。
ベイルとリガーと一緒に、次の魔王四秘宝のある場所「オーガスティン諸島」に向かう為だ。
向こうには既に以前の僕の仲間、マックスが待機している。
港は今ちょっとした御祭り騒ぎになっている。
メルクリウスやヘルズベルに棄民キャラバン、今まで知り合ってきた人達がみんな僕らの見送りにやってきているからだ。
出店まで出ていて、メルクリウスの何も知らない住民達も足を運び「これなんの騒ぎ?」と首を傾げながらも楽しんでいるようだ。
「なんか大袈裟すぎねえ?」
ベイルがこの状況に戸惑い僕にしがみついている。
「英雄の旅立ちってのはこんなもんだにゃ、胸張って堂々としてればいいにゃ」
リガーは僕のお尻を叩いて言う。
「英雄って僕はそんな大したものじゃ」
「こういうのは本人がどうってより周りがどう思ってるかだにゃ。少なくともここに集まってる連中にはお前は英雄に見えるって事、それにその扱いに相応しい仕事もお前さんはやってのけたとおいらは思うにゃ」
「その意見には私も賛成」
「伊織」
「さてさて英雄様にお似合いでしょうか、ご注文の品がこちらになります」
僕はおどけながら伊織が差し出した幻影水晶のイヤーカフを受け取り耳に付けた。
「しっくりくる、さすが伊織だね宝石をこんなふうに加工できるなんて」
「そりゃまぁ私の手にかかればこんなもんよ」
伊織は得意げに胸を張ってそういった。
「あー!伊織の耳にもついてる!!」
ベイルが伊織に指を刺し、興奮気味に言う。
伊織の耳にも小さな幻影水晶のイヤーカフがついているからだ。
「へっへーお揃いだもんねー」
「ずるい!ずるいぞ!!」
ベイルは悔しそうに伊織を責めながら僕の腕を抱きしめる。
「いいでしょ雄馬」
「うん手間賃がわりってことで」
「やりぃ」
伊織はベイルに見せつけるかのように嬉しそうに指を鳴らして見せた。
ベイルは悔しがりながら僕の肩を甘噛みする。
伊織が悔しがるベイル煽るのを心底楽しんでいるようで僕は思わず苦笑いした。
『聞こえる?』
頭の中に伊織の声がした。
幻影水晶の力で通信しているようだ。
『うん、聞こえてるよ』
『やった、これでいつでも雄馬と話せる』
『欠片にはなったけど力の強いオブジェクトだから使いすぎないでね、体を侵蝕されちゃうから。僕の左腕もオブジェクトになっちゃってたんだ』
『マジで!?それは怖いけど会話くらいなら大丈夫でしょ、あと夢の中にも会いに行けるか試してみるから』
『すごいグイグイくるじゃん』
『意外?まぁ私もこんな自分に驚いてるけど。あんたみたいな相手は初めてだから少し浮き足立ってるのかもね。引き止めるの我慢してるんだからおおめに見て』
『わかった、待ってるよ伊織』
「あいつら何ニヤニヤしながら見つめ合ってんだ?」
陽介が僕と伊織を見て不思議そうに呟く。
「見つめ合うだけでわかりあう関係、尊い……」
アリスは羨ましそうな顔で陽介の袖を握りしめた。
「あのさアリス、俺も雄馬と一緒に行きたいんだけど……」
「陽介は私と復興の手伝いやるの」
「やっぱだめかぁ」
「陽介とアリスも今までありがとうね」
「ちぇーっ俺もこの世界を股にかける大冒険したいー!雄馬だけずるいー!」
「子供かお前は……」
将冴が呆れた顔で言う。
「一番ついていきたい伊織が我慢してるんだよ」
アリスが続けて口にした。
「それを言われるとなんもいえねぇけどさ」
「……もっと頑張らなきゃ」
陽介を見上げ小さく呟きながら、アリスは小さく拳を握り締め決意の目をしている。
そんな彼女に陽介は気づいてないようだ。
がんばれアリス!
「ゆう坊」
「ブルーノ、来てくれてありがとう」
ブルーノは僕を抱きしめた。
「ここはもうお前の故郷みたいなもんだ、いつでも帰ってこい」
そういうと彼は力一杯僕を抱きしめる。
心細い時いつも彼のハグで励まされた。
ブルーノは僕にとってもう一人の父さんだ。
「やるべき事を済ませたら必ず帰るよ」
「絶対だぞ」
鼻声のブルーノが僕から手を離すと、彼の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
僕は笑いながら彼にハンカチを渡す。
伊織が僕の胸に手を当て、真剣な目で僕をみる。
「あんたいつも無茶するから……、死んだりなんてしないでよ」
「そう言ってくれる人がいるって幸せな事だよね」
「はぐらかさないで、必ず帰るって約束して」
「約束するよ、絶対にまた伊織に会いにくる」
伊織は僕の言葉に頬を赤くして息を飲む。
そして照れくさそうに目を背け、小さな声で「嘘だったらどこまでも追いかけちゃうんだから」と呟いた。
「ほらもう早く行って、じゃなきゃ引き止めたくなっちゃう」
「そうだね、名残惜しいけど」
周囲を見渡すとそこに集まったみんなはどこか寂しそうな笑顔で僕を見ていた。
僕はみんなの気持ちが嬉しくて涙が出そうになるのを堪え、笑顔を見せる。
「ありがとうみんな、またね」
モンスターや街のみんなが横断幕を掲げたり紙吹雪を散らしながら口々に別れの言葉を言い手を振ってくれる。
「いろいろあったけど俺この街が好きだなぁ」
ベイルがしみじみしながらいう。
「そうだね、いつかきっと帰ってこよう」
僕は後ろ髪を引かれる想いを胸にしまい、港のゲートをくぐり次の新天地へと向かった。




