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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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660回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 454:あの場所で待つ

「おお!?ゆう坊お前どっから出てきたんだ?」


 僕の背後からブルーノが声をかけてきた。

 振り返るとゲートはもう消えていた。


 ゲートは背面からは中が見えなかったらしい、ブルーノには僕らがいきなり空中から降りてきたように見えたんだろう。


「ブルーノ!メルクリウスに戻ってたんだ」


 僕は彼を抱きしめる。


「おっと、ははは。仲間のことが気がかりでな、ここも色々と事情が変わっててんやわんやだ。でも明日も見えなかったあの頃よりはずっといい、みんなお前のおかげだ、ゆう坊」

 ブルーノは微笑み、僕の頭を優しく撫でる。


 僕はブルーノからメルクリウスの近況を聞く事にした。


 父さんと僕の対決の後、バクルスの破壊により獣頭人や獣人達の隷従の首輪が壊れ、彼らによる暴動が起きないか危惧されていた。


 しかしそれはブルーノ達が元奴隷達のまとめ役を行う事でそれは回避され、今は種族の隔たりなく協力して復興作業にあたっているらしい。


 あの時の絶望的な状況で主従関係なく協力して生き延びた経験も距離を縮める結果を生んだらしい。


 ちょうど広場の先でリス獣人の少年ラウと助祭のズロイが二人で作業している様子が目についた。


「あいつ頭でも打ったのか?」

 ベイルが怪訝そうな顔をして言う。


「助祭のとこの婆様を助けるのにラウが奮闘したらしくてな、それからなんだかんだでいい感じらしい」

 ブルーノは微笑みながら言った。


 街中を見て回るとプレイヤーも加わりみんなが協力して復興作業に勤しんでいた。

 メルクリウスの街をこうして歩いていると、どこに行っても伊織の姿が目に浮かぶ。

 彼女の声が今にも聞こえてきそうに思える。


「おい雄馬」

 陽介に声をかけられ彼が見つめる方角を見ると、爆発が起こり吹き飛ぶ瓦礫と粉塵の先に将冴の姿が見えた。


「こういうの手伝うんだ、あいつ」

 陽介は心底意外そうにそう呟く。


 将冴は僕らに気づくとつかつかと近づき、陽介の顔に指を刺した。


「何ぼさっと見てる、手伝いに来たならさっさと作業しろ」


 陽介とアリスはプレイヤー達に頼まれ復興作業の手伝いに来ていた。


「手伝いに来たのはあってるけどさ、言い方がきにくわねぇんだよなぁ」


 陽介が不貞腐れていると、将冴は彼の胸を拳で軽く叩き、微かに微笑み歩き去っていく。


「なんだよあいつ」

 そう言いながら陽介はどことなく嬉しそうな顔をして将冴に続く。


「男の子ってよくわかんない」

 アリスはそう言って僕に肩をすくめて見せ、僕の苦笑を見ると微笑み陽介について行った。


「やぁやぁボクの王子様、ご機嫌いかがかな?」


「雄馬くん!怪我とかしてないですか?」


「氷雨、ほのか!おかげさまでこの通りピンピンしてるよ」


「思い出したんですか!?」


「二人の顔を見てから少しずつね、まだいろいろ朧げだけど……」


「ボクの事はどれくらい思い出したんだい?」


「えっとチーズ蒸しパンを買おうとしたら襲われて……」


「えーっなんですかそれ?」


「それはもういいから……」

 しょぼくれる氷雨を見て僕とほのかは笑う。


「二人は今までどうしてたの?」

 朧げに戻ってきた記憶が確かなら、氷雨はオブジェクトを使っていた女の子の父親に斧で襲われ、ほのかは胸を刃物で貫かれていたはずだ。


「ポプラさんが助けてくれたんです」


「認識を殺して怪我を負って死んだように見せかけ、聖王の影響の及ばないところにプレイヤーを匿ってたんだ」


「隔離されていた私達は大聖堂の異変に巻き込まれずに済んで、霧の魔獣が大量に溢れ出したメルクリウスの人たちを助けるために動くことができたんです」


「彼女には最初からそうなるのがわかってたって事?」


「教授の行くところは遠からず災害が起きる、彼女はそう言ってました」


 これがポプラなりの贖罪という事なのだろうか。

 彼女が裏で動かなければプレイヤー達は犠牲になるばかりだっただろう。


「でもこれって教授に対する裏切りだよね、彼女大丈夫なのかな」

 氷雨が少し心配そうに言う。


「それに関しては大丈夫だよ、あの教授の事だからこうなるのをわかってたんじゃないかな」


 ワリスが以前言っていた、全ては彼の望む通りになるという言葉。

 彼女にそう言わせるほどの力が教授にあるのならば、おそらくそういう事なのだろう。


 もしかすると僕が新しいテトラモルフの力を手に入れることすら、彼の計画の内だったのかも知れない。

 ふと脳裏に僕を送り出した時の伊織の寂しげな顔が浮かんだ。


「大丈夫かい?気分がすぐれないようならボクがエスコートするけれど」

 そういう氷雨に僕は笑顔で大丈夫だよと返す。


 この街には伊織との思い出がたくさんある。

 どこに行っても彼女のことを思い出す。

 やはり行くしかないだろう。


「それじゃ僕は約束があるから行くね」


「えーっ!?誰だいボクらを差し置いて雄馬を独占しようなんて不届き者は!」


「氷雨さん引き止めるようなこと言っちゃ雄馬くんに悪いよ」

 そう言いながらもほのかも残念そうな顔をしている。


「悪いんだけどベイルも街で待ってて。ここがメルクリウスの僕の家の場所、これお小遣いね」


「ちょっ!?俺も置いてくのかよ」


「ごめんね、日暮れまでには帰るから」

 頭を撫でながらそう言うと彼は不満げな顔をしながら了承した。


「わんこ君はボク達が面倒見といてあげるよ」


「ありがとう氷雨」


「だぁー!二人して人の体あちこち撫で回すんじゃねえっての!!」


「氷雨さんここ!胸毛ふわふわだよ!」


「本当だね、ああ、頬擦りするともう最高だぁ」


「ゆうまぁ」

 困り顔のベイルに手を合わせると、僕はその場を後にした。


 向かう先は大聖堂、伊織の工房。

 差出人不明の手紙に一人で来いと書いてあった。

 おそらく待っているのは……。


 大橋の目の前で立ち止まる。

 メルクリウスに起きた異変の最中に魔女の亡骸が失われ、橋は歩いて渡れるようになっているようだ。


 半壊状態の大聖堂に向かう人はいない寂しい崩れかけの橋。

 

 僕は一つ深呼吸すると、大橋を歩き始めた。


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