659回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 453:凱旋
アリーナにたどり着くと、そこにはミサの姿があった。
彼女は銀の荊に手をかざしてなにかを確認しているようだ。
「よう!雄馬」
陽介が僕に声をかける、傍にはアリスの姿もあった。
「どうですかいお嬢」
「うん、ちゃんと繋がってる。動かせるよ」
ミサはストレードさんにそう答えた。
「だそうだ、起動するぞ」
ストレードさんが注意喚起し、僕らは中央から離れ何が起きても対処できるように軽く身構えた。
「こういうのワクワクするな!」
ベイルが目を輝かせている。
「良い子にして待ってるんだよ」
そう言って彼の頭を撫でると、ベイルは子供扱いすんなってーのと不貞腐れながら尻尾を振る。
銀の荊から光の粒子が散り、荊の上に透けた銀の薔薇のつぼみが浮かびそれらが花を開くと、アリーナの中心にワープゲートが開いた。
「おーこれってメルクリウスの中央広場か」
陽介はそう言うと、向こう側からこちらを見て目を丸くしている通行人に手を振る。
「この薔薇ってもしかしてメルクリウスの転送の間の?」
「元々一つだったオブジェクトを二つにしてそれぞれの地域で運用し始めたと記録があってな、設定と配列をいじって同期させてみたらこの通りだ」
ストレードさんは少しドヤ顔で胸を張った。
「これがあればいつでも行き来できる?」
「闘技場が休みの土日のどちらかになるだろうがな」
「……やった!」
アリスはなんだか嬉しそうに小さくガッツポーズをした。
友達がこちらにいる彼女にとって嬉しい話なのだろう。
双方の都市の物流もしやすくなるし、そうした事情があれば闘技場を通路として開放してもらうのも話は通りやすいはずだ。
「みんな準備はいい?」
僕が尋ねると、陽介とアリス、そしてベイルとリガーがそれぞれ了承の返事を返した。
「それじゃ行こう!」
僕はそう言うとゲートをくぐりメルクリウスの街に足を踏み入れた。
足元にあるのは確かにメルクリウスの石畳、そして都市特有の空気も変わらない。
周囲の光景を眺め僕は「ただいまメルクリウス」と呟いた。




