66回目 けしてわかりあえない
「お前なにやってんの」
男の声がした、私はもう疲れて目を開けることも嫌で、
返事をしようと口を開き、一つ息を吐いて、そのまま。
もうどうでもよかった、なにもかも。
「生きてるんでしょ、死体の横で寝そべってそういう趣味なの?」
疑うんじゃないんだ、私は少し彼に興味を持つ。
一言二言くらいなら、口を聞いてもいいと思えた。
「つまんないんだよ、意味がなくて」
「やっぱり変な奴、ねえ目を開けてみなよ」
「やだ」
「いいから」
そういって男は私の頬に毛皮のようなものを当てる。
それはまるで手のように私の頬を撫でた、
毛布越しにしては妙にゴツゴツとした骨の感触。
それになにより・・・。
私は少し瞼を上げる、びくっとその手が怯えた。
胸の奥に小さな痛みが走る。
「呆れた、自分で言い出したんでしょ」
手が離れる。
ああ、まただ。そんな気持ちでいっぱいになる。
それならそれで確認しよう、
確認したらまた目を閉じて、そうしたら・・・。
目を開く。
空と、風にそよぐ木の葉、草花の香りがした。
視界の中に彼はいた。
全身を獣の毛皮で包まれ、狼の顔をした一人の少年。
誰ともけしてわかりあえなかった私と、
誰ともけしてわかりあえない彼は、
こうして出会った。




