647回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 441:罪の光輪
距離を詰め攻撃を仕掛ける。
しかし父さんはその場から一歩も動かず、体の捻りで攻撃を避け、手刀と蹴りによる迅撃でカウンターを繰り出して来る。
蹴りや拳で長く攻めれば鞭のような動きの腕に逸らされ、肘で短く攻めれば肘で払われる。
まるで父さんの前に巨大な盾があるような感覚だ。
それに加えこちらの攻撃を防いだ姿勢が常に次に放つ攻手の形になっている。
溜めを必要としないまさに攻防一体の拳だ。
こちらから攻めているのに、父さんの攻撃を防ぐので手一杯だ。
そして彼は微笑み呟く。
「楽しいな雄馬、親子喧嘩も悪いものではない」
そう言うと父さんは僕の拳を逸らして腕を掴み、もう一方の拳で僕の胸を打ち付け、左右の拳で三発腹部を殴り、顎を掌底で打ち上げ僕を吹き飛ばした。
意識が飛びそうになったが歯を食いしばり、受け身を取り起き上がる。
「父さんがこんなに強いなんてしらなかったよ」
「学生時代にいろいろあってね」
そう言うと彼は手のひらを上に向け僕を招く。
続く僕の攻め手に対し父さんは体を回転させ、その動きで繰り出される蹴りと拳によるどこから来るかわからない守りと反撃の猛襲の中、僕はいつの間にか後ろ回し蹴りで吹き飛ばされていた。
実力差は圧倒的だ、だけど父さんの呼吸と力の流れは掴めた。
僕は空中で体を捻り着地前に地面を蹴って一気に距離を詰め、父さんの認識の虚を突きにいく。
顔に向かい拳を放ち、腕で防がれた瞬間接点を使い肘打ちに移行し、肘を使った体当たりで胸を打つ。
そのまま彼の腕を掴み姿勢を崩し、鉄山靠で吹き飛ばした。
父さんは地面を滑るように着地すると、満足げに微笑む。
「筋が良いじゃないか、このままでは負けてしまうかもしれないな」
そう言うと彼の背後のカーテンが降り、その背後からボロボロの姿で壁に取り込まれたミキノが現れた。
「本気を見せるとしよう」
彼がそう言うとミキノが悲鳴を上げ、彼女を取り込んでいた大罪の悪魔の体が霧散して父さんの体に吸収された。
荘厳だった景色は一変し、黒く腐り果てた空、朽ち果てた世界に変貌していく。
父さんの体も黒い異形の姿に変貌し、背後に虹色の光輪が現れる。
そしてその背中に眩い光でできた悪魔の六枚翼が現れた。
「色欲の大罪は形にこだわる者の背負う業、やはり私にも資格はあったようだ」
彼は自分の醜さを確認し自嘲するように笑う。
紅玉の腕輪が危機を察したかのように熱を持ち光を放つ。
僕は父さんに紅玉の腕輪をかざし、フレスベルグを放った。




