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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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641回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 435:ただ君だけを求める

 ミキノは僕を見つめため息をついた。


 彼女が動くと悪魔の巨体も連動し、魔石が擦れて欠片になり砕け散っていく。

 魔石が擦れ砕けるたびに、無数の悲鳴に似た小さな声が聞こえて来る。

 魔石の断片から噴き出す赤い霧から肉塊が生まれ、怨嗟の思念を形にしたかのような霧の魔獣が生まれていく。


 ミサが震え上がり僕にしがみついてきた。

 僕は彼女を抱き止めながら、ミキノの動向を窺う。

 彼女は光のない目で自分の掌を見つめている。


「駄目なんだよ、あれから。いくら命をそそいでも、先輩が目を覚ましてくれない。お前がいなくなってからずっと眠ったまま」


 ミキノは虚ろな目で僕を見る。


「やっぱり先輩にはお前が必要なんだ、協力してよ」


 彼女がそういうと周囲の霧の魔獣が一斉に襲いかかってきた。

 フレスベルグは身じろぎもせず炎の羽根で迎撃していく、大罪の悪魔を前にして出力が上がってきているらしい。


「先輩のこと助けにきたんでしょ?雄馬は困った人を見捨てられないお人好しだから、自分がついてなきゃ駄目なんだって先輩から聞かされたよ」


 ミキノは伊織を思い出しているのか微笑みながら、大罪の悪魔を動かし、魔石の槍とカオスバーストを使いこちらを攻撃し始める。


 槍を回避し炎の槍で迎撃するが、間に霧の魔獣が入り攻撃が届かない。


「助けてよ、先輩が幸せになるには、お前じゃなきゃ駄目なんだ」


 大罪の悪魔の周囲に霧の魔獣でできた巨大な両手が生み出され、その指先から放たれたレーザーがフレスベルグを追尾する。


 フレスベルグは孔雀の羽のように炎の帯を展開してそれを防ぎ、無数の魔獣弾が迫る中、羽ばたきで生み出した青い炎でそれらを焼き尽くした。


 ジュリアを倒した際その炎の力を取り込んだらしい。

 得体の知れない力だ、だけど今はこれに賭けるしかない。


「目を抉り顎を引きちぎり、耳を削いで手足も落とし先輩のそばから離れられなくしてやる。お前が世界でただ一人先輩だけを愛しさえすれば、あの人はきっとまた俺に笑ってくれる」


 ミキノは悲痛な顔で笑った。


 その顔を見て僕はもう話で解決できる状況じゃないと理解した。

 僕には僕の、彼女には彼女の通したい道がある。

 どちらかが倒れるまで戦うのは避けられない。


 ミキノの慟哭と共に混沌の渦が肥大化し、テンペスト島が混沌の渦に落ちるかのように引き寄せられ始めた。


 大罪の悪魔を倒さなければ兆しが訪れ世界が終わる、パットの言った通りだ。

 だけど今は女王も止めなければならない。


 どうすればいいか苦悩する僕のそばに小さな精霊が現れ「聞こえるか雄馬」と陽介の声で話しかけてきた、伝聞用の召喚獣だ。


 上空に陽介のワイバーンが見える。

 気流に乗って加速しているらしい。


「女王は俺が相手する、お前はそいつをなんとかしてくれ」


「陽介一人なんて無茶だよ」


「俺じゃ頼りないか?」

 彼のその言葉には一才の迷いはなく、確かな覚悟を感じた。


「一緒に生きて帰るんだ、忘れないで」


「やってやるぜ!」

 陽介はそう意気込むと一気に加速して飛んでいく。


 僕は追撃してくる大罪の悪魔と霧の魔獣に炎の帯と羽根のフルバーストを行い一対一の状況に持ち込む。


 大罪の悪魔は全身の水晶部分を光らせ、光で巨大な蝶の翼を産み出してこちらに突っ込んでくる。

 僕もフレスベルグに蒼炎を纏わせ何重もの炎の帯を後に引き大罪の悪魔に体当たりさせた。

 

 眩しい白い光が爆発するように広がり、僕とミサ、そしてミキノを飲み込んでいった。

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