637回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 431: デスコミュニケーション
ドルフの黒模様が稲妻を放出して光り、彼の振るうブレードアローの斬撃に紫電が走る。
レオの黒剣がそれを受け流し斬り返す。
レオは運命殺しを発動しながら斬り結ぶ。
しかしドルフは平然と斬り返してきた、何度繰り返しても同じように。
そんな彼にレオは「ほう」と感心したように呟いた。
「雷撃を乗せて攻撃してるのに、どうなってんだお前」
ドルフは困惑しながら言った。
彼は今ブレードアローに普通の人間なら即死する威力の雷撃を乗せていた。
しかしレオも平然と攻撃を捌いている。
「この鎧から稲妻を通す運命を殺した」
「カァーッたく憎らしいまねしやがる!」
そう言いながらドルフはバク宙で距離を取り、黒い矢をブレードアローにつがえる。
「巨岩を封じ込めた影矢だ、土手っ腹に大穴開けちまいな!」
そう言いながら彼が空中で矢を放つと、レオはマントで身を隠す。
150トン超の質量がレオを襲い、彼を中心にクレーターが深々と形成される。
しかし彼は微動だにせず、矢はマントを貫くこともなく自重で潰れて消滅した。
「なっ!?」
唖然とするドルフにレオは愉快そうに剣を向ける。
「生存の運命を殺しているはずだが通じていないようだな、それがワリスの死刃を無効化した対処というやつか?」
「死刃ってのは人の身で扱えるようにした絶技に近い力なんだってな?絶技は世界の理に働きかける秩序の力、それなら混沌の極地にある大罪魔法を使えば破る事ができる」
「七獣将のみ使う事ができる大罪魔法、なぜ貴様が使えるかは知らんが好都合だ」
ドルフが周囲の影から放った無数の矢を一閃で斬り払いながらレオは笑う。
「大罪魔法の使い手と殺し合ってみたかった」
「今の攻撃、運命殺しじゃねえな」
今の一閃でドルフの頬についた傷から血が流れ、彼はそれを舐めとると攻撃的に笑う。
「この調子で全力吐かせてブッ殺す」
ドルフは周囲に雷を大量に落として攻撃し始めた。
雨の様に落ちる雷の中、レオは意に介さず歩く。
雷は不自然な軌道で彼を避けて落ちていく。
「無闇に落としても意味はないぞ」
「わかってらぁ、本命はこっちだからな」
ドルフはそう言ってニヤリと笑うと闇に染まった矢をつがえ、地面の影に落ちた雷を影を通じて矢に凝縮し、レオに放った。
雷撃を纏った矢は真っ直ぐにレオに向かって飛び、彼は「むぅ」と呟きながら剣で矢を斬り払う。
稲妻が微かに剣を握るレオの手を焼いた。
「一纏めにした大罪魔法ならお前の力もぶち破れる、もう一発いくぜ」
ドルフがそう言うと特大の雷が落ち、矢に吸収され紫電を放つ。
レオはドルフに向かい走り出す。
ドルフは影から無数の矢を放ち彼を牽制。
レオが剣で矢を払った瞬間、ドルフは影の中を移動しレオの背後から雷撃の矢を放った。
矢の周囲の石畳などが熱で溶けて崩れていく。
レオは振り返り、黒剣の切っ先で飛来した矢の先端に触れ、矢を消滅させた。
熱は彼を避けるように爆発し、周囲を溶かしてマグマだまりへと変えた。
「なぁ!?」
「力そのものに干渉できないなら、空間ごと殺せばいい」
「他にも死刃を隠し持ってやがるのか」
「俺に死刃は必要ない、大抵の物は技で殺せる」
彼がそう言って黒剣を軽く振ると、一瞬で溶けた石畳が冷えて固まり、彼はその上を歩いてドルフに近づく。
「おいおいなんでもありかよ」
頭を押さえ首を振った後、ドルフはニヤリと笑う。
「それなら今の俺の力、全力で試せるってことだよなあ!」
そう言うと彼は雷を自分に落とし、帯電しながら超高速攻撃を繰り出し始めた。
攻撃の余波で建物を構成する石材がグツグツと溶けて崩れていく中、涼しい顔で攻撃を受け止めながらレオが笑う。
「ここでは少し狭いな」
彼がそう言って足元に剣を突き立てると、塔が一瞬で灰になり風に散った。
「さあ楽しませてくれ」
「余裕かましてられるのも今のうちだぜ!」
ドルフがそういうと周囲の建物の壁に電流が走り、ドルフの体が弾丸の様にレオに向かって飛んだ。
二人は落下しながら空中で戦い続ける。
稲妻の磁力で宙を自在に動くドルフ、対してレオは葬技を駆使して空中に足場があるかの様にドルフの攻撃に斬り返し、双方防御を捨てた猛烈な攻撃の応酬を繰り返す。
互いが武器を一振りする毎に、近くの塔や街並みが弾け両断されていく。
ドルフは自分に磁性を持たせて、レールガンのように移動しながら攻撃と射撃、影移動を駆使してレオの背後に周り、彼の首を狙う。
「隊長の仇!!」
ブレードアローを振ると、ドルフの腕に見えない刃が食い込み肉を裂き、動揺して剣筋が鈍った瞬間をつかれ蹴りを入れられ吹き飛ぶ。
「空気がこの空間に入る運命を絶った、真空の刃というやつだ。斬撃の痕跡が結界になる」
「まったく出鱈目も程々にしろぉ」
冷や汗を流し悪態を吐きながらもドルフは楽しそうな顔をする。
彼は周囲に微弱な電磁波を飛ばし、真空波の結界の位置を把握、それを回避して攻撃を継続する。
そんな彼をみてレオも愉快そうに笑った。
「ようやく死力を尽くせる相手と巡り合えた」
「これじゃデートみたいだ、相手がお前じゃなきゃ最高だったんだが」
「すぐに夢中にさせてやる」
レオの心臓を狙った突きがドルフを貫く。
しかしドルフは雷光で黒剣に影を落とし、レオの剣を透過させ無傷。
カウンターでブレードアローの一撃を見舞い、球体型の雷撃を連射、レオがバク宙で回避すると、磁力移動で瞬間的に追いつき追撃するが、彼の斬撃はレオの剣で弾かれ距離をとり双方地面に着地した。
「相手の 心臓 を掴んだ方が勝ちってか、笑えねえ冗談だぜ」
そう言いながらもドルフは無自覚に破顔していた。




