64回目 レディメイド ミステリー研究会の事件簿
その高校のミステリー研究会では少し変わった活動を行っていた。
ミステリー研究会会長の三年「田所 津紅美」
ゆるふわな思考にふわふわな髪ともふもふな持ち物が特徴の二年「尾崎 晴菜」
入学するや田所に誘われミステリー研究会に入った一年「矢島 伊夫」
この三人で殺人事件を題材にした会長考案のTRPGをプレイし、事件を解決するのだ。
ミステリー研究会は津紅美が会長になるまではミステリー小説などの考察やトリックについての感想、
それに同時に同じ本を読み合わせながら、センテンスごとに推理しあうなんてことを行っていたが、
彼女が会長になってからはずっとTRPG形式である。
そして彼女の提示する事件が常に異常に難解で複雑怪奇、
一見解決したような結論に至っても津紅美はいつも解決していないと答えるのみ。
そんなわけで誰も攻略できず、誰も付いていけず、今や三人が所属するのみとなってしまったのだった。
伊夫が来るまでは津紅美と晴菜もそのTRPG「レディメイド」をプレイすることはなくなっていたが、
レディメイドをプレイしたいという伊夫に津紅美は久しぶりにやる気を見せる。
三人は互いの知識と機転と観察眼を出し合い、始めて一つの事件を解決するに至った。
津紅美はすぐに音声記録していたTRPGのリプレイ情報をどこかにメールすると、
彼女のおごりでラーメン食べに行こうか!とメンバーを誘う。
津紅美は伊夫の他人の闇を引きずり出し事件に対する解決能力を引き上げる特性を危険視しつつも、
彼がいれば他の事件も解決できるかもしれないと独り言ちながらシャワーを浴びる、
自室に戻ってきた津紅美がベッドに寝転がるとスマホにメールの着信情報が表示される。
「タイミングぴったり、お父さん私の部屋にまさか盗聴機とか仕掛けてないよね」
そう言って笑いながらメールを読むと、ベッド脇のメモ帳を手に取り彼女は次のレディメイドのシナリオを綴り始めた。
津紅美の父は検察の上層部に所属していて、
迷宮入りした事件を徹底追及し必ず解決させるための善意の組織としてある特務組織を結成した。
しかし検察や警察、部下の裏切りにより組織の実権を奪われ、
その組織は警察の体裁を守るために迷宮入りした事件を社会から消し去るための組織になり果ててしまった。
しかし彼は理想の具現のためにいくつかの手を取っていて、
正義のためならありとあらゆる犠牲をとわない、冷徹なる正義の執行人と化していた。
津紅美は彼によって事件解決のための推理機械として育て上げられた人間であり、
津紅美にとっての親子関係とは=父から出される事件という謎かけを解く事だった。
しかしいつしか一人で解決することに対して心細さを覚え始めた彼女は、
TRPGレディメイドとして他の部員の推理も聞きながら推理を行うようになったのだった。
伊夫は警察の捜査を打ち切らせ人質として捕らえられていた妹を死なせた特務組織を恨み、復讐しようと考えていた。
特務組織の調査を行う探偵の元で仕事をしてきたため探偵としての能力が総合的に高く、格闘能力にも秀でている。
特務組織に対する接点を持つ会長と接触するためにミステリー研究会に入会する。
彼の話術は会話の相手の内在している闇を引きずり出すことに長けていて、
犯人として怪しい人間にボロを出させる事や、協力者に疑心暗鬼を持たせて犯人を裏切らせる事などが本来の使用方法だが、
TRPGプレイ中はもっぱら晴菜の内在している犯罪者特性を引き出し彼女に犯人目線でプロファイリングさせることに利用している。
晴菜は生まれつきのサイコパスで殺人者寄りの思考をしてしまいがちなため、あえて普段から頭の回転を緩くしている。
祖父が警察官で昔から凶悪犯罪の解決に貢献してきた人物であり、家には彼が個人的に記録してきた事件簿がある。
事件に対して美的感覚を感じていて、それを収集できる最も生々しい情報のあるミステリー研究会に参加する。
晴菜を会長が時々吸血鬼と呼んでいる理由は彼女が人の死を生きがいにしている事、
そしてその血によって彼女の本質とポテンシャルが呼び起こされることに起因している。
彼女自身が自らの闇を解き放つと全てむき出しになってしまうが、
伊夫によってコントロールを受けながら曝け出す分には問題ないため次第に彼に心を許し始める。




