633回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 427: 罪の形をした獣
「グッ!!」
左目を抉り取られたベラは顔を押さえてうずくまった。
「ベラ!!」
「アハハハッ私を殺しておけばこんな目に遭わずに済んだのにねぇ……はははははっ!!」
「この野郎……やりやがったな!!」
ベラは気迫で痛みを誤魔化そうとしているが、青白い顔をしている。
「痛い?痛いよねぇ?キャハハッ。ちょっと待ってなさぁい、すぐに殺してあげるから」
そう言うとジュリアは自分の左目を抉り出して、ベラの目を眼窩に押し込む。
「あっハァッ」
ジュリアは快感を得ているかのように仰け反ると赤と青の炎に包まれ、体を宙に浮かし始めた。
彼女の背後に羽衣が展開され、その体から蒼炎が噴き出し、炎が混ざり合い紫色に変わる。
そして彼女の手に禍々しい大剣が生み出された。
「あれがドゥームブレイド……?」
僕の言葉に呼応するかのように、剣に大小幾つもの目が開き僕とベラを凝視した。
「怒ってるわよぉベラベッカ、自分の存在を終わらせようとしたあなたにぃ」
ジュリアの言葉と共に魔剣の眼球が一斉に憎悪に歪む。
「それじゃぁ……殺してあげましょうねぇ」
ジュリアはベラを見つめながら魔剣を掲げる。
僕は琥珀のダガーを構えて間に割って入った。
「そこまでだ!」
そう叫びながら兵士達がアリーナに踏み込みジュリアに向けて弓を構える。
貴賓室からこちらを見るフェルディナンド王子の姿が見える。
彼が指示を出したようだ。
「退避してください、ここは我々が引き受けます!」
兵士のその言葉を聞きながらジュリアを見る、彼女の視線はベラから兵士たちに移っていた。
「駄目だ、みんな逃げて!!」
僕の叫びも虚しく、ジュリアが魔剣を一振りすると数十人の兵士たちが一瞬で消し炭になって崩れ落ちた。
「ああん、快感……でももっと、もぉっと強い力が欲しいぃ。こんな体じゃ満足できない、もっともっと強い体に!!」
そう言うジュリアの体に羽衣が突き刺さり、彼女の体がひび割れ炎を吹き出し始める。
「ヒヒ……ハハッ」
ジュリアの目はもはや正気では無い。
彼女の体はボロボロと崩れ、中から異形の悪魔が現れた。
「キャハハッヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
奇怪な笑い声を上げながらジュリアは手に入れた力で遊ぶように周囲を無差別に攻撃する。
空が歪み、混沌の渦から無数の巨大な腕が伸びていくのが見えた。
「あんなもの……この世界にあっちゃいけない」
ベラが呟く、その目はどこかジュリアを憐れんでいるように見える。
ジュリアが所構わず放った火球が爆発し、僕とベラを除くみんなは遠くに吹き飛ばされた。
ベラを抱えて逃げるには時間が足りない。
「どこまでやれるかわからないけど、やるしかない……!!」
僕は琥珀のダガーを起動させ、水分含有量の多い植物で自分達を囲むドームを作り、その壁の厚さを増していく。
ジュリアの火球や炎剣、炎による攻撃により抵抗虚しくドームは燃やされ、炎はすぐそばまで迫っていた。
「ん?」
ポーチから鼓動を感じ、赤い包みを取り出す。
血の匂いのする赤い包みは、ジュリアの炎に反応するように燃え上がり、中から紅玉の腕輪が姿を表した。




