632回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 426: 祖国の歌と悪意の炎
コロシアムを取り囲むように無数の人だかりからヘルズベルの国歌が斉唱され始め、女王エロイーズは自らが辿るこの先の運命が頭によぎり狼狽えた。
「こんな、こんな終わり方を……ありえぬ、妾は認めんぞ!!」
彼女の精一杯の抵抗は誰の心も動かさず、虚しく空に響くだけだった。
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「……殺さないと後悔するよ」
ジュリアは俯いたままベラに言った。
それに対してベラは口を開く。
「お前の夢はここで終わり、そして復讐の魔剣の歴史もここで終わりにする。もう私みたいな目に遭う奴が出ないように、それが私の復讐だ、後悔なんてしない」
迷いなくそう言うベラに対してジュリアは口をつぐんだ。
コロシアムの外から大勢の人が歌う声が聞こえ始めた。
「この歌は……?」
「ヘルズベルの国歌だ、久しぶりに聞くよ。エロイーズに王位が移ってから誰も口にしてなかったからな」
コロシアムの外から聞こえるくらい大群衆が歌っているようだ。
一体何が起きてるんだろう。
「なぁ雄馬、客席で反乱が起きたとかって話してるぜ」
ベイルが耳をそばだてそう言った。
「こんなに離れてるのに聞こえるの?」
「まぁな、この歌も女王の退位を要求して歌ってるらしい」
ベイルが言い終えると、客席からも国歌を歌う声が上がり始めた。
この状況で僕はスタンの言っていたことの意味がようやくわかった。
この国では剣闘士はスターのようなものだ。
優勝者が決まり長年空席だったチャンピオンが生まれる、それはこの国においては民衆にとってのもう一人の王が生まれたのと同じ意味がある。
その新しい王が女王を否定すれば求心力は著しく落ち、ガルドルの支配力は弱まりフォンターナ派にとっての好機となる。
この国の歪んだ支配体制が変わる時が来たのだ。
ベラもそれに気付いたようで、ヘルズベル市民の一人として驚きながら笑顔になる。
そんなベラの背後にジュリアが立ち怪しい動きをしはじめた。
「ベラ!後ろだ!!」
「もう遅いわよ、おばかさぁん」
ジュリアは頬まで裂けるような笑みを浮かべ、右目の炎を指で掬い、振り返ったジュリアの左目を炎の羽衣で抉り取った。




