627回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 421: 葬送の剣
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一方その頃、鐘塔の守りを任された黒騎士の少年セナは退屈しのぎに小石を壁に蹴り時間を潰していた。
鐘塔に備え付けられた四つの鐘がメロディを奏で始めると、セナは不愉快そうに顔をしかめ石を蹴り飛ばし兵士の頭にぶつける。
「あいたっ」
石をぶつけられた兵士はセナの不機嫌そうな顔を見ると、仲間と一緒にそそくさと立ち去っていった。
不機嫌なセナに八つ当たりされ大怪我させられる兵士が絶えず、今では彼が不機嫌な時は退避してもいいことになっていた。
「胸糞悪い音だ、ムカつく」
セナは青龍刀を握り、鐘を壊したくなる衝動を抑えながら塔を見上げる。
「この鐘って魔女シコラクスが残した魔法の一つなんだってね」
セナは男の声に振り返る。
そこには悠々と近づく中年の男、エドガーの姿があった。
「祈りの鐘塔。元々はこの地域に暮らすすべての生き物が、穏やかな気持ちで眠りにつける様に心を落ち着かせる鐘だった。それをまさか自我境界を弱めてガルドルの侵食を早めるのに使うなんて、子守唄で洗脳するみたいで悪趣味だよねぇ」
「見慣れねぇ顔だな、どこから入った」
セナは相手の出方を伺うことにした。
以前雄馬と戦って以来、彼は相手を侮る事をやめた。
「頼れるお友達のご案内でね」
エドガーの言葉にセナは頭を掻く。
彼の頭には犯人の惚けた顔がうかんだ。
「あの猫親父か、面倒な事しやがって」
リガーの努力虚しくあっさり無駄になりエドガーは苦笑する。
「でも意外だったなぁ。ここの守りって一般兵の中隊の他、黒騎士は君一人なんだね?」
「依頼人が碌でもねえからどいつもこいつもやる気無くてな、ワリスの奴今日もサボってやがるし」
「君って口は悪いけど真面目なんだ」
「まぁな」
そう言いながら、セナは虚を突いて斬撃を飛ばす。
しかしエドガーは流れる様に抜刀し、切っ先で撫でるように斬撃を弾き飛ばした。
「あぁ?なんだぁ?」
セナは不愉快そうに顔をしかめる。
「危ないなぁ、始めるなら始めるって言ってくれないと」
「余裕かましてんじゃねえ雑魚が!」
セナは怒りを剥き出しにして青龍刀で乱れ斬りし、その斬撃を多方向から同時にエドガーに浴びせる。
エドガーは刀を手首で回転させ振り回し、斬撃の全てを切っ先で軽く弾き切る。
「そんなにイライラしてちゃつまんないでしょ、楽しく行こうよ」
「オブジェクトでも死刃でもねぇな、ただの刀でどうしてそんな真似ができる」
セナはエドガーを警戒し、構えをとった。
「葬技を見るのは初めてかい?それじゃ腕を奮って披露してあげなきゃね」
セナは地面を蹴り、エドガーの背後に瞬間移動、彼の背中に袈裟斬りを放つ。
「なっ!?」
何故か青龍刀の刃はエドガーを傷つける事なく背中を撫でた。
隙だらけになった彼の脇腹をエドガーの振り向きざまの蹴りがえぐる。
「ぐうッ!!」
セナは咄嗟に背後に飛び蹴りの威力を軽減させ、エドガーの前方に瞬間移動し刃を振るう。
斬撃に強風域からワープさせた豪風を加えた二重攻撃。
エドガーは斬撃を刀で逸らし、豪風で姿勢を崩す。
「くたばれ!!」
セナはその隙を逃さずエドガーの胸元に突きを放つ。
「やるねぇ、けどまだまだ」
エドガーがそういうと豪風がぴたりと止まり、彼の姿も消えた。
「なにっ!?」
セナの背筋に悪寒が走る。
彼は振り向きざま袈裟斬りを放ち、背後からの攻撃を弾く。
しかしエドガーは次の瞬間セナの隣に瞬間移動し追撃を放っていた。
「チイッ」
セナは肩を斬られ出血しながらも、体を捻り致命傷を避け、空間転移してエドガーの死角から攻撃を仕掛ける。
絶対零度の冷気を帯びた刃と、マグマの熱の刃の二連撃。
刀で防いでも冷気が血を凍らせ、熱が肉を焼き尽くす。
しかし冷気と熱はエドガーすり抜け、彼の背後を燃やし凍てつかせて消えた。
「クソ!クソッ!!クソッッ!!」
焦りながらセナは燃え盛る巨大な虎を呼び出す。
「立派な灼虎だねぇ」
見上げるエドガーは余裕の表情で刀を構え、虎が吐いた強烈な炎のブレスを両断して掻き消した。
そして飛びかかってきた虎に向け刃をかざす。
「しつけが必要かな?」
彼が刀を振り下ろすと空から無数の光の柱が降り注ぎ、灼虎の体をズタズタに引き裂いた。
灼虎は地面に倒れ、唸りながらエドガーを睨みつける。
「わお、原型とどめてるなんてタフな子だねぇ」
「何もんだテメェ」
「 嘯風弄月 のエドガー。黒猟騎士団の前身、デスウォッチの生き残りだ。よろしくね後輩君」
そう言うとエドガーは不敵に笑った。




