626回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 420: 獣に残る面影
「うっ……」
人型の棄獣の身体的特徴から、あることに気づいて少し吐き気がした。
ヘルズベルの住人で見知った人の体や服の特徴に合致する個体が何体もいる。
戸惑う僕に棄獣の爪と歯が食い込む。
「動揺させる為に……ッ!」
こんな事のために人の命を使うなんて。
攻撃を振り解きながら女王に対する怒りが込み上げるが、そんなことを考えている暇もなく敵は襲ってくる。
棄獣は斬り裂く度に悲鳴をあげ、罪悪感と自己嫌悪を掻き立て眩暈を引き起こす。
まるで精神の毒を食らっている様な気分だ。
僕は棄獣を斬りながら身体構造を分析し、コアのありかを見つけた。
「せめて苦しまない様に、どうか!」
祈りながら山刀を突き立てる。
悲鳴がない、即死だ。
「グウゥッ」
僕は歯を食いしばり山刀を引き抜くと、同様にして周囲の人型棄獣を全滅させる。
「はぁ……はぁ……ッ!」
次の集団が迫ってくるのを感じ場所を移動する。
避けきれなかった一団と遭遇し、スライディングで脇を抜けて広間に入る。
瞬時に壁に木を這わせて燃やして明かりをとり、敵を迎え撃つ。
人体は前に進む際に最初に膝が前に出る。
それを利用して二体の膝を蹴り折り、首を刎ね、他の敵の攻撃を側宙でかわしながらもう一体のコアを貫き粉砕。
右から来た敵の拳を避け、左手で手首を掴み右の肘でコアを砕く。
一体が正面から突進してくる。
僕は相手に向かいスライディングし、バク転の要領で巴投げをして壁にぶつけ、後ろ回し蹴りでコアを砕いた。
壁を粉砕し大型の棄獣が現れ、無数の触手を放ち襲ってきた。
部屋が崩壊する中、落下してくる瓦礫の影を縫って走り触手攻撃を避け、衝撃の大罪魔法で山刀を高周波ブレードにする。
棄獣に接近、死角に入り眼前の巨大な瓦礫ごと棄獣をぶった斬り真っ二つにした。
斬撃の余波が壁を粉砕し、遠く離れた尖塔を斜めに両断する。
「あちゃー、力加減の調整がまだまだだな」
山刀に宿った衝撃の大罪魔法は出力にもよるが一日に使えて数秒程度だ。
この先何が起きるかわからない、なるべく温存しなきゃ。
今の戦闘で壁が崩れ外の様子が見える。
どこかの大きな古城らしい。
まだ昼間なのに空は真っ暗で景色すら見えない中、外壁が微かな燐光を放つ古城が怪しい存在感を放っている。
夜だとしても空の混沌の渦の周りに光の輪「月輪」と、渦が放つ混沌の粒子が星空の様に見える。
それさえ見えないという事は何かしらのオブジェクトの影響下なのかもしれない。
大きな棄獣を倒したけどコロシアムに戻れないって事は、やはり僕らをベラとジュリアから隔離するのが狙いらしい。
「ロメロなら脱出方法がわかるかも、早くみんなと合流しないと」
僕は生命力感知でみんなのいる場所を確認。
植物操作でそれぞれの居場所に明かりをつけ、植物で方向を示して誘導しつつ、合流するために走り出した。




