625回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 419: 決勝戦
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決勝戦当日。
アリーナに足を踏み入れるとジュリアがたった一人で僕らを待っていた。
「まさかあいつ一人でこっちと戦うつもりか?」
ベイルが困惑しながら言う。
たしかにこの間の試合では一人で何十人もの剣闘士相手に圧勝していたが、こちら側にはロメロもいるし、そこまで見くびられてはいないはずだ。
「何か仕掛けてくるかもしれない、油断しないで」
僕の言葉にみんなが臨戦体制に入る。
ジュリアはそんな僕らを見て愉快そうに微笑み、次の瞬間僕の視界は真っ暗になった。
客席のざわめきも聞こえない、空気の流れから察するにどこか狭い場所に転移されたらしい。
「みんな、大丈夫?」
返事はない、代わりに何かが動く音がかすかに聞こえた。
荒い呼吸音と、何かが滴る音。
空気が揺れた。
「ふッ」
身を翻し接近した何かを山刀で斬りつける。
浅い、しかし斬りつけた何かは甲高い悲鳴をあげた。
「人間じゃなさそうだな」
一つ深呼吸し、目を閉じ神経を研ぎ澄ませる。
耳が微かな物音を聞き、肌が空気の揺らぎを捉える。
二本足の生き物が五匹くらい、僕を取り囲み隙を窺っている。
音の反響と冷たい空気から石造りの建物の中にいることがわかった。
ポーチから琥珀のダガーを引き抜き意識を集中させ壁一面に木を這わせ、少し内部に細工をして枯れさせる。
ギギッ、キィッ!と叫びながら襲いかかってくる何かの攻撃を交わしては斬りつけ、精神を蝕む様な叫び声の中、生命力感知で周辺を探る。
生き物の配置から察するに、僕はどこかの大きな建物の一室飛ばされたらしい。
他のみんなもこの建物の別の場所に散り散りに飛ばされたようだ。
ベラとジュリアの反応はない。
二人はアリーナに居ると思って間違いないだろう。
「早く敵を蹴散らして戻る手段を探さないと」
僕は壁の枯れた木の内部で空気を圧縮させた。
断熱圧縮という現象で、うまくいけば圧縮された空気の熱で木に火をつけることができる。
圧気発火器 という器具と同じ仕組みだ。
目論見通り壁一面の枯れ木が燃えて周囲を照らし、僕を襲っていた化け物を正体を暴き出す。
「人型の……棄獣?」
僕を取り囲んでいたのは、人間の姿をした不気味な棄獣の群れだった。




