624回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 418: 覚悟を決めろ!
「それって」
言いかけて僕は言葉に詰まった。
「魔王軍との戦いでそれなりに名を上げて、英雄の一人って呼ばれたこともあるんだけど。それが不味かったみたいでね」
エドガーは遠くを見るような目をして言うと、僕の隣に立ち川の流れる先を見た。
「英雄だった頃の俺に憧れて、俺みたいになりたいって言い出して、小さい頃は可愛い夢だなんて思ってたんだけど」
彼は順番に丁寧に、記憶を辿りながら話しているように見える。
自分がこれからすることに対する気持ちの整理をつけようとしているのかもしれない。
「普通の人間が束になっても倒せない相手を一人で倒せちゃう存在って、平和な世界では爆弾みたいな物でしょう?だから魔王討伐の後、俺みたいなのは世界の敵として扱われてね」
エドガーはアメリカンドッグを頬張り残った串の先端を眺める。
「仲間にはそんな状況でも毅然と立ち向かう奴もいたんだけど、俺は奥さんとジュリアを守りたくて逃亡生活する事にしたんだ」
彼がそう言って軽く振ると、串は一瞬で燃え上がり灰になって消えた。
何かのオブジェクト?それとも別の力を彼は持っているのだろうか。
「戦いもせず逃げてばかりの生活が嫌になったのか、ある日あの子は俺たちの元から姿を消した。それで最近剣闘士のジュリアの噂を聞いてこの島にやってきたってわけ」
「ベラベッカとの因縁も知ってるんですか?」
エドガーは神妙な顔でうなづく。
「ジュリアが道を踏み外した責任は俺にある。力を貸すから、君達にはあの子を止めてあげてほしいんだ」
「娘さんをどうするか、ベラが決める事になりますよ」
「自分のした事の落とし前はつけなきゃならないからね、俺も彼女も」
そう言うとエドガーは鐘塔を見上げた。
「君が困ってるのはあの鐘だろ、俺が止めるよ」
「んな!?正気かにゃ!?」
リガーが驚いて素っ頓狂な声を上げた。
「あの鐘塔は今黒猟騎士団が守ってるにゃ、いくらお前でも一人でどうにかなる相手じゃないにゃ!」
「君が俺を信じてくれるならやってみせる、これでも元英雄、だからね」
エドガーは返答を促すように僕を見た。
グレッグは彼を敵と言ったが、彼の言葉に嘘はないと感じる。
リガーと親しくしてるし、信用してもいいんじゃないだろうか。
『勝手にしろ』
グレッグは僕の思考に応えるように、少し不貞腐れた様子で言った。
僕はそんな彼が少し可愛くて小さく笑う。
君のこと嫌いになれそうにないよ。
そう心の中で呟くと、グレッグは『フンッ』と鼻を鳴らした。
「わかりました、お願いします」
「うん、任された」
気持ちのいい笑顔でそう言うと、エドガーはそそくさと逃げ出そうとしたリガーの腕を掴む。
「リガーくぅん、君ってこういう時俺一人にやらせるほど薄情じゃないよね?」
「あーもー!絶対そういうと思ったにゃ!」
リガーは耳と尻尾を下げてしょんぼりした。
「バレない程度しか手伝わないかんにゃ」
「うんうんありがとう、やっぱり持つべきものは友人だねぇ」
談笑しながら去っていくエドガーとリガーを見送っていると、ベラがやってきた。
「いよいよ明日だな、覚悟はいいか」
そう言って彼女は僕の胸を軽く拳で叩く。
「雄馬にそんな質問は無用だぜ」
陽介が現れて言う。
「やるべき時にはいつでも覚悟が決まるのが雄馬だからな」
ベイルは僕の肩を抱いてウィンクしてみせる。
「常在戦場……良い心がけだ」
ロメロが口元で微笑みながらうなづく。
「お、俺はちょっとおっかないですけど。足引っ張らないように気合い入れるんで!」
テムがコロコロした体でガッツポーズした。
僕は一つ伸びをしてコロシアムを見上げる。
こうしてみんなといるとなんだってできる気がする。
僕もみんなにとってそういう存在でありたい。
「決勝戦、勝つぞーッ!!」
僕がそう言うと、みんなはオーッ!と掛け声を上げた。




