63回目 君が異世界に行く前に
高校2年の近藤 砂生はある日トラックに轢かれ異世界に飛ばされてしまう。
その世界の人間に助けを求めようとした砂生を人間たちは問答無用で殺そうとする。
わけもわからず逃げ惑う砂生を救ったのは妖艶な少女フェリスだった。
彼女に導かれるまま異世界から帰還した砂生が目覚めると、
彼を看病していた幼馴染の如月 鈴が彼を抱きしめる。
トラックに轢かれた後彼は病院でこん睡状態だったらしく、
砂生は全て夢だったのかと考える。
しかし彼が退院し自分の暮らしていたアパートに帰って来ると留守にしていたわりに埃一つなく、
むしろ前よりも部屋が片付いている上に隠していたエッチな本がベッドの上にまとめて綺麗に置いてあるのをみて顔面蒼白になる。
そんな彼に買い物袋をさげた女の子が声をかける。
どこかで聞きなれた声に無意識にその名前を口にしながら振り返る砂生。
彼の背後には異世界で出会った少女、フェリスがいた。
彼女は砂生に言う、彼のこの世界における余命はあと7日と。
残りの7日の間による眠っている間に異世界に赴き、
砂生が異世界に転生する準備をする必要があるというフェリス。
砂生はフェリスと異世界を旅し、彼の転生を阻害する結界を破壊し、
転生した後の彼のその世界における立場の確立を進めながら気づく。
転生した後の砂生の役目、それは異世界の人間たちの殲滅。
彼は魔族の王として転生し、異世界を魔族の支配する世界にしなければならないのだ。
事実を知った砂生は自分の存在に悩む。
そんな彼の前に鈴が現れる。
彼女は異世界から彼が転生するまえに殺す役目を負ってこの世界に転生してきた人間だった。
残り4日の間に彼自身が決心するまで待って貰うように頼む砂生。
フェリスは砂生と共に異世界を旅してまわり、
魔族を共に配下に納めながら、
ただ魔族も人間も総て憎く醜いと感じていた彼女の心の中にかすかに芽生えた温もりの正体を知りたいを想い始める。
「貴方と一緒にいると世界の見え方がまるで違って見える」
フェリスが砂生に見せる表情はいつしか一人の少女らしい優しさをたたえていた。
鈴は砂生を本当はこちらの世界で出会った時に殺してしまうはずだった。
しかし異世界での記憶と常識感を持って産まれてきた彼女にとってこちらの世界は地獄だった。
他人と打ち解けることもできず、親にすら煙たがられ、
誰にも言えない秘密を抱え、任務を果たした後の未来すら何も見えない闇の中で。
砂生はそんな彼女に友人としてたった一人接してくれた存在だった。
そんな彼の事を必要としてしまい、
任務の達成を先延ばしにしているうちに想いは日増しに強くなって、
ついには彼の転生の時が近づいてしまった。
鈴は砂生に提案する。
「君はこの世界に残る気はない?私と一緒に」
フェリスを殺してしまえば砂生は転生しなくてもいいかもしれない。
砂生は悩み一時は彼に殺されることも覚悟し、あえて殺されようと迫ったフェリスの涙を拭い決意する。
鈴は砂生の残した置手紙を読んで泣く。
7日目、彼は異世界に立っていた。
異世界に転生し世界を滅ぼさないでいられるように最善を尽くす、それが彼なりに出した答えだった。
沈んだ顔をしたフェリスに砂生は笑顔で言う。
「俺は犠牲になるつもりもないし、誰も犠牲にするつもりなんてない。
ただ君を守りたいと思ったんだ」
「きっと貴方は後悔することになる」
「なんとかしてみせるさ」
そう言って空を見つめる砂生の顔に一片の曇りもない。
それを見たフェリスは一瞬迷いながらも
「馬鹿な人……」
そういって微笑み彼の腕を静かに抱きしめた。




